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AT&T とベライゾンの分析(個別銘柄:米国株)

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  1.IT産業のプラットフォーマーという微妙な立ち位置   AT&T,ベライゾン は、インターネットのプラットフォームを提供する銘柄で、日本でいえばNTTのような名門企業である。一見成長性豊かなIT企業と同列に捉えてしまいそうだが、これらネットワークのインフラ通信企業は、他ITメーカーのように世界展開が出来るわけではない。一般的に通信事業はその国の国家機密とも絡む国策企業のため、他国の通信業者の参入は限定されたものになる。これら通信業者はその国内で巨大かつ名門企業であるものの、その享受は国内需要に限られたものになる。 2.多角化の模索と失敗 実際、AT&Tもベライゾンも更なる飛躍を企て、通信の下流に入るべく、AT&TはディレクTV、ワーナーパイオニアなどのメディアを多額の資金をもって買収した。ベライゾンもAOLやヤフーを買収している。これら事業は国境の壁はなくどこまでも拡がる成長分野だが、残念ながら両社にはこういった事業を飛躍させるノウハウがなかった。両社の経営陣は、どちらかといえば日本の大企業に近いのかもしれない。結果として、日本企業の買収劇のようにそのどれもが中途半端で終わって、しまいには巨額の損失を計上し切り離す結果となっている。そして膨大な有利子負債だけを残して。   3.本業復帰  しかし、最近になって、ようやくAT&Tもベライゾンも本業に特化したビジネスモデルに回帰した。非常に高い授業料を払ったことになるが、投資家にとっては好材料である。そういった意味では、その産業における成長余地に関係なく、餅屋は餅屋に徹して、主力の事業にリソースを集中させ、常に他社の追随を許さないような経営に徹するのが良い。一見地味であるが、それが廻り回って、ビジネス競争力を強靭なものにしていく。   4 . 今後の展開  これら2銘柄は米国における通信のプラットフォーマーとしての地位は確率されている。しかし、この分野は同時に日進月歩の研究開発と設備投資が求められ、 多額の設備投資と開発費用が必要になるため、 長期期間にわたって増収増益を続けるには無理がある。  そういう面で2社をみていくと、 AT&T は大幅な減配し配当負担を大幅に減らした。それと同時に債務も 1800 億ドルから 1300 億ドルまで減らした。当面は有利利子負債を減らしな

国際的地位が低下しても西欧諸国は世界経済を牛耳る胴元  (世界の潮流)

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初版 2022.09.24 1.国別GDPランキングの長期推移 最近は、数百年前までの世界経済力ランキングも発表されるようになった。どこまでの精度かは不明であるが、これらの資料は、超長期的な視点での経済ランキングを予想するうえで重要な示唆を与えてくれる。世界国別の経済力の変遷を辿ってみると、以下の通りとなる。  1800年頃: 1位 中国 2位 ヨーロッパ 3位 インド   1870年頃: 1位 ヨーロッパ 2位 中国 3位 インド 4位 アメリカ これをみる限り、世界経済はヨーロッパ諸国とインドと中国で占められ、国別の経済力ランキングは古今東西において大きな変化はないということがわかる。この延長上で考えれば、この先の100年でインドの地位が中国同様にリバウンドするのは必然的な流れだ。最近は、少子高齢化や人口ランキング動向で先進国の衰退を指摘するレポートが散見されるが、トルコやインドネシア、そしてアフリカ諸国が、今後50年間に西欧諸国を追い抜くというシナリオは上記水位の延長上でみると想定しにくい。 2.為替レートを牛耳る西欧諸国 そもそも為替レートはなんなのかということだ。一般的に為替レートは総合的な国力を意味する。しかしながら、為替レートの価値基準は欧米的価値基準に沿って成り立ってと言えなくもない。西欧諸国の通貨を基軸として周辺の国々通貨価値が決まっていく。そのため、胴元である西欧諸国の為替が相対的に高くなるのは当然の成り行きである。さらに、為替レートは面であり、地続きであるということ。例として、デンマークの為替はデンマーク単独の評価ではなく、西欧諸国の一員というプレミアが為替レートに付加されている。  こういった視点で見ると、スペインやノルウエ―、アイスランド、スウエーデンなどは大した産業もないのになぜか通貨や所得水準が高いのも合点がいく。スペインなどは東南アジアのタイと同じようにシエスタなどでのんびりした国でも、れっきとした先進国である。このように、西欧諸国以外の国は、胴元とそれ以外という点で後れを取らざるを得ない。つまり、西欧諸国の国民と同程度の為替レート(国富)で同水準のライフスタイルと生活水準を謳歌するには、欧米諸国の数倍働かなければ追い付けないという厳しい現実がそこにある。 3.文化と価値観を牛耳る西欧諸国  西欧諸国の為替レートの優位性は、歴史的な視

金融緩和の局所的な副作用としての世界の不動産高騰(経済情報との向き合い方)

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  初版 7/08/2022 (旧タイトル 投資視点で不動産を考える) 1.不動産バブルが経済成長を終焉に導く  経済成長が正常に機能すれば不動産価格は上昇する。これは日本の高度成長期を見れば一目瞭然である。しかし、その結末は、80年代の日本の不動産バブルのように不動産価格の異常なほどの高騰であり、やがてそれが破裂し、長期低迷に陥ってしまう。日本はいまだにその後遺症から立ち直れていない。  バブル時は不動産価格の暴騰で一般庶民が大都市の不動産所有が困難になり、不動産を待つ者と待たざる者の格差を発生させた。その一方、国力という点では、ジャパンマネーは、世界中に流れ込み我が世の春を謳歌することにもなる。また、21世紀初頭には、中国がチャイナマネーとして世界をけん引する。規模に違いはあるが、韓国や台湾も地価上昇によって富が蓄えられ日本と同レベルの生活水準に達した。このように不動産価格の高騰は国富を膨らませるだけでなく、膨大な不動産成金(富裕層)を輩出させる富の源泉でもある。 2.過剰な金融緩和が導く不動産バブル  過剰な金融緩和は不動産市場を活性化させる。日本のバブル景気時代だけでなく、21世紀初頭の世界中の過剰な金融緩和も、投資マネーとなって世界中の優良不動産をバブル化させた。その後のサブプライム暴落で天文学的な不良債権問題に発展するかと思われたが、FRBを筆頭に世界中の中央銀行がさらなる金融緩和政策を実行したことで、不動産バブルが一部の地域で再発することになる。 例として、中国における不動産価格状況を見ていくと 深センや北京市は年収比の50倍超え、上海市や広州市は年収比の40倍超え(上海万得信技術より)まで高騰した。それ以外にも年収比10倍以上を超える地域が20か所弱にも及ぶとの調査結果もある。 近隣諸国を見渡しても、香港、ソウル、台北など中心部の不動産価格は年収比10倍超えとなっている。 それだけでなく、パリ、ロンドン、バンクーバー、アムステルダム、シドニー、シンガポールなど世界の名だたる大都市の不動産価格が年収比10倍以上となり、億超えの物件が当たり前となっている。 3. 少子高齢化が不動産市場を二極に向かわせる  日本は80年代バブルをはるかに凌駕する金融緩和を続けているが、都心部でさえ平均7000~8000万程度の不動産価格に留まっている。日本は少子高齢化によ

ラリー・カルプによるGE解体の今後 (個別銘柄:米国株)

  初版 2021.08.20 (旧タイトル GE再建とコングロマリット経営の光と影) 1.世界有数の優良企業  GEは、20世紀を代表する指折の巨大企業(コングロマリット)である。ダウ平均銘柄の当初からのメンバーで、1907年から2018年まで111年にわたってその座を維持していた。  また、素晴らしい組織力と経営力は他の企業のお手本とされ、さまざまな教材に利用されている。そういう優良企業であるGEが、2018年に今までの評価を全て覆すような未曽有の危機に陥ってしまい、現時点でも再建中である。 ここでは投資家の視点で、コングロマリットの超優良企業の代名詞であるGEに何が起こったのか、そして投資家は何について気を付けなくてはいけないのかについて考察をしなければいけない。 2.ジャック・ウェルチによるGEの隆盛  80年代前半にジャック・ウェルチは、GEのCEOに就任した。最初の5年間に10万人ほどの人材をレイオフして、事業の売却や清算を推し進めた。 その一方、「世界で1位か2位になれない事業からは撤退する」スタンスで企業の合併・買収(M&A)を繰返し、小型家電事業や半導体事業などの製造事業を売却する一方で、証券会社やリース会社、消費者金融会社、「NBC」などの放送会社を買収し、非製造業ビジネスの売上高を4割以上に高め、2000年には金融事業の中核である「GEキャピタル」の利益が会社全体の利益の52%を占めるまでに至った。 こうして、総合家電メーカーから世界有数のコングロマリットに転換させることになる。 売上高は、1981年からの20年間に272億ドル⇒1732億ドル、純利益は16億ドル⇒107億ドル、株価は4ドル⇒133ドル(株式分割(4回)を考慮)、株式時価総額は140億ドル⇒6010億ドルまで膨れ上げることに成功する。このようにして、経営の神様の名を欲しいままにする。 3.ジャック・ウェルチCEO交代と衰退の始まり  ジャック・ウェルチの経営は神がかっていた。しかし、一流の製造業が一流の金融業も兼ねることのハードルの高さを次の経営者が直面し、GEの経営は水面下に逆回転する。 2001年、ジェフ・イメルトがGEの次CEOに就任する。世間は、ジャック・ウェルチの指名した後継者なら同等の成果を出してくれるだろうと期待をした。しかし、ジェフ・イメルトは、GE本来の出自で

連続増配記録の正念場 スリーエム (個別銘柄:米国株)

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初版220403 旧タイトル:増配率の長期低迷懸念 スリーエム スリーエムは、60年以上続く連続増配銘柄であり、古参のダウ採用銘柄である。かつてはGEと並び称される優良コングロマリット銘柄としてもてはやされたが、GEが退場した現在、同社に対するコングリマリット経営の評価は年々厳しいものになっている。 2.会社の構成  ①産業部門(Industry) 30%強       工業用テープ、接着剤、研磨剤等    ②セキュリティ部門(Safety&Graphics) 20%程度       防塵マスク、滑り止めテープ   ③ヘルスケア部門(Health Care) 20%程度       病院向け機器 サージカルテープ他    ④電子・エネルギー部門(Electonics&Energy) 15%程度        絶縁テープ モニター用フィルム等  ⑤一般消費者部門(Cimsumer) 15%程度       ポストイット、粘着テープなど    まさに、コングロマリットであり多岐の製品を扱っているが、接着系技術をベースとした製品も多く、そういう面では特定の技術に対して、応用的な利用を提唱し、様々な業種に多面的な展開を図っていこうとする経営戦略を垣間見ることができる。 3.企業業績 上記の通り、長期に渡って理想的な経営を行っていることが分かる。老舗企業でありながら持続的な成長を続けており、これに連続配当年数を加味すると優良企業の鏡であるのは間違いない。そして米国を代表する企業であることも間違いない。 3,増配率の低下懸念 しかし、配当という側面から当社を見ていくと、当社の苦境も見え隠れする。長期軸での配当性向は以下の通り。 配当性向が上昇気味に推移していることが分かる。さらに直近5年間をトレースすると2017(59%)⇒2018(61%)⇒2019(74%)⇒ 2020(63%)⇒2021(58%)   一株当たりの配当は、2018(1.36)⇒2019(1.44)⇒2020(1.47)⇒ 2021(1.48)⇒2022(1.49)に推移している。  ここ3年は、わずか1セントしか増配していない。このことはスリーエムの増配余地が上限に達していることを意味している。どうも、経営陣から見て売上及び利益の更なる成長が見込めていないことの表れである。  逆な見方だと

ネットワーク専業企業からの脱皮に苦戦  シスコシステムズ(個別銘柄:米国株)

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  初版 20220326 1.はじめに シスコシステムズは、ダウ30にリストアップされている世界有数のネットワーク機器企業です。この会社の戦略は、ジョンチェンバース元CEOの「市場をセグメント化して、そのセグメントでNO.1かNO.2になることを目指す」に代表されます。           2.中途半端なM&A戦略 シスコシステムズは、ネットワーク機器を主軸にしながら、長年に渡って積極的なM&Aを実施してきました。その数は優に200社を超えています。こういう戦略は、年代的にはGAFAの先輩格とも言えます。ちなみにこの会社は、1999年に世界一の株式時価総額を記録しています。ほんの短い期間ですが、一昔前のGAFA的な役割を担っていました。 これだけM&Aをしながら、今もってして、この会社はネットワーク機器という領域から大きく脱皮していません。同時期の雄であるマイクロソフトはWindowsの呪縛から離れ、更なる成長軌道に移行させた事を考えると非常に残念です。当然ですが、その結果は株価の差となって表れています。 3.成長性の乏しい業績推移 下記のとおり、GAFAMと好対照に売上は、長年に渡ってほぼ横ばいです。M&Aの実施状況から類推するにネットワーク機器と関連ソフト以外の事業を大きく飛躍させる実力がないことを物語っています。これではIT分野のオールドエコノミーも同然です。 4.「ズーム」躍進に見るシスコシステムズの限界 その代表が「ズーム」です。この会社のCEOは、シスコシステムズ出身です。もし、このCEOの力量をシスコシステムズ内で如何なく発揮することが出来たなら、ズームの原型であるWebexMeetingは、シスコシステムの主力製品になっていただけでなく、投資家は新事業領域の開拓に成功させたシスコシステムズの経営に対する力量を評価することになり、そのプレミアとして株価は現状の2倍近くで推移することでしょう。 まことにもったいない話です。 私自身が勘繰るには、これは一例に過ぎず、幾度となく、シスコシステムズはこういった大魚を逃がし続けていると推測されます。マイクロソフトなどのように主力製品を広範囲の事業分野でラインナップできる会社ではなさそうです。当然ですが、これは企業に深く根付いた文化でもあり、これからも同じことを繰り返することは間違いありま

名著「となりのミリオネア」から投資の本質を学ぶ(その他) 

初版 20220320   二版 20221212  三版 20230101    1.みすぼらしいおじさんの遺産がなんと 10 億円  これは有名な話ですが、非常に示唆に富む話なので今回取り上げます。    米国のブルーカラーのおじさんの遺産がなんと 10 億円だったという実話があります。彼はブルーチップ株をひたすら買って配当を再投資する投資法で巨万の富を築きました。彼の投資した銘柄は、少なくとも 100 社近くにのぼり、ヘルスケア、通信、公共、鉄道、消費財等に分散投資し、そのほとんどが CVS ヘルス、ジョンソン&ジョンソン、P&G、JPモルガン、ゼネラルエレクトリック、ダウケミカルなど米国を代表する優良銘柄群でした。     2.筋金入りのケチ  報道によると駐車場代がもったいないので、駐車場代のかからない遠くの敷地に車を止めたとか。車も中古のトヨタ車。さらには、あまりにも貧相なので友達が食事を奢ってくれたとか、株も証券会社に預けずに自分で保有して手数料すらケチったとか、とにかく筋金入りのケチのようです。こういったケチさ加減は程度問題ですが、本人が満足するのなら幸せなことです。バフェット先生の生活も質素です。  日本でも、億とはいかないまでも、生前は非常に質素で、「お金がない」が口癖だった親父の遺品整理をしていたら、たくさんの株券や 5 千万円を超える定期預金があったという話はよく聞きます。身なりや生活レベルと資産額は必ずしも一致しません。  逆に、羽振りの良い人が雀の涙ほどの遺産しかなかった話もしかりです。世の中、そんなもんです。(こういう話って、芸能人に多いようです) 3 .この話の盲点(時代背景を冷静に見つめよう。)   1959 年のダウ 30 指数は、 600 ドル前後で、ロナルドさんが亡くなる 2012 年頃は 13000 ドル弱です。ダウ指数はざっと約 20 倍に膨れ上がっています。これが 2021 年ならダウ指数は 3 万ドルを超えているのでざっと 50 倍以上に膨れ上がっています。つまり、 1959 年にダウインデックスに 10 万ドルを投資したら何もしなくても、配当による再投資分を考慮したら、恐らくですが、前者が 400 ~ 600 万ドル、後者が 2400 ~ 3600 万ドルまで資産が膨ら