「最も危険なことは、時代のトレンドに陶酔する」事である (温故知新)


 
1.必衰の理

 投資家に限ったことではないが、私達はその時代の持つ雰囲気に巻き込まれ、それが永遠に続くような錯覚に陥ってしまう。しかし、そのほとんどは10年後には全くのまやかしであったことに気が付く。それだけでなく、その時代に最高のトレンドを謳歌した人たちは、その後に目を覆うばかりの衰退や禍根を経験する。

 物事は常にある方向に向かって変化し、それがピークに達するまでに続く。しかし、流行はピーク時ではなく、ピークを過ぎて少し下降気味になった頃に盛り上がることが多い。そのため、極端な例だと流行した翌年には見事に流行が廃れてしまうケースも少なくない。そこには「盛者必衰の理」の如く、世の中の儚さが渦巻いている。

2.土から生まれ土に帰る

 投資に関する流行を追い求める愚かさの実証として、バブル時代に焦点を当てながら、以下の3例を挙げてみる。

①株式投資(日本の重厚長大系)

 バブル期には、日本を代表する会社群である新日鉄、三菱重工、日本製紙(本州製紙)、三菱化学、みずほ銀行(日本興業銀行、第一勧銀、富士銀行)、シャープ、三洋電機、東洋紡、沖電気などの株価は全て4ケタ台を記録した。その当時は、ジャパンアズナンバーワンとしてこれら企業群がその後に斜陽になることなど誰もが想定することはなく、日本の未来はバブル期以上に輝いているものであると信じていた。しかしながら、これら銘柄の株価は30年を経過した現在においてもバブル最高値に遠く及ばないだけでなく、数分の一程度の株価で一進一退していることも少なくない。増配株の優等生であるNTTですら最盛期の数分の一の株価に留まっている。

この当時、製造大国、又は電子立国日本という風潮に浮かれて日本株式会社を購入した投資家のほとんどは大損する羽目になってしまった。

リゾートマンション投資

 「リゾートマンション投資」は、どちらかというと大企業幹部などの社会的ステータスの高い中流層が中心になって、都心に住宅を持ちながらも別荘用としてリゾートマンションを購入することがステータスとなり流行となった。当然であるが10年後にはこれら不動産は2倍近くに値上がりすることを期待していて、まるで小貴族を体現するかのような行動をとっていた。まさに陶酔の極みである。それが30年後には無価値に近い暴落をしたことで、甚大な損害を被ることになる。

 例えば、リゾートマンションを3000万円(頭金1000万円)で購入した場合の支払総額は、当時のローン金利(7~8%)を考慮すると、5000万円近くに及んでしまう。それだけでなく、これら不動産には毎年、50万円近くの維持管理費と固定資産税が課せられる。そうなると年に数回しか行くことのない不動産に5000~6000万円以上の出費をしたことになる。逆に売却しようとしても、今となっては100万円でも売れないだけでなく、手放さない限り、毎年発生する多額の固定費に悩まされることになる。子供たちは当然の如く相続拒否。そのため、ほとんど無価値同然で投げ売りする事例が後を絶たない。そんなマンションの購入者は、販売戸数から類推すると数万人に及びと言うのだから目も当てられない。

ゴルフ会員権

これもバブル時代のビジネス貴族の勲章のようなものであった。しかしながら、バブル崩壊に伴う会員権価格の暴落とゴルフ人口の減少に伴うゴルフ場の経営危機が重なって、時が経てばたつほど無価値になっている。

3.時代の波で投資した人ほど無残な結果に陥る

とはいえ、こういった行動は別に愚かなことをしたわけではなく、それらは当時の最高の投資法であったことに疑いの余地はなく、多額の余剰資金がある富裕層又は準富裕層が時代の雰囲気に飲み込まれて陶酔した結果にすぎない。いつの時代も、その時代の成功者ほどこのようなパラドックスに貶められて資産をドブに捨ててしまうようだ。こういった投資の中心は往年の日本株式会社の隆盛を謳歌した勝ち組であり、時代の流れに乗って成功した人たちが、その時代の最高とされる「成功の方程式」という時代のときめく投資行動に走り、結果的に苦労して手に入れた資産を社会に程よく還元してしまっている。まさに、「土から生まれ土に帰る」を地で行くようなものである。

4.海外生活のトレンドの変化

 90年代は、今のタイやマレーシアと日本では、物価は5倍以上の開きがあった。ベトナムなどは10倍近くある。その頃の日本人は東南アジアの人たちから見るとどんな人でも金持ちであった。こういったことから、バブルから2000年前半までは、日本人は東南アジアで夢のような生活を送ることができた。とはいっても、90年代に日本を捨てて東南アジアで一生優雅な生活を謳歌しようと移住したら、その後は無残となった。現に、多くの人はアジアの物価高に対応できなくなり、現地の人たちと同じ生活を出来るかの選択を迫られてしまっている。私は、安いからと現地の屋台でカオマンガイを食べたいとは思わない。今となっては、残念ながら、食べ物や生活必需品の品質を考慮に入れたら、日本が一番安いということになってしまった。  つまり、今のトレンドに酔いしれると10~20年で無残な結果を招いてしまう。これはFIREも同じで、同程度の生活を維持しようとしたら、10年後は1.5倍、20年後は2倍で計算しないと破綻する可能性があることを視野に入れなくてはいけないということを暗示している。

5.現代のトレンドを醒めた目で見る

 今の日本のトレンドを軽く羅列してみると、「低金利」「パワーカップル」などが挙げられるだろう。「低金利」については、これを前提に人生設計としている人が多い。低金利でお金を借りて、資産運用で儲けるなんてカッコの良いことをするのが今の流行である。年収700万~800万のサラリーマンが5000万円以上もするマンションを購入する際、頭金を最低額にして余ったお金を使って投資で儲ける。この行動を考えるとき、ここ10年は異常ともいえるマイナス金利を歴史的にどう判断するかにかかっている。精密な分析はどうであれ、歴史を紐解けばこういった状況には必ず反動が付きまとう。その結果は、この先10~20年のスパンで表面化するであろう。

さらにパワーカップル。こういう世帯ほどプライドが高く、子供を幼い時から私立に通わせ、低金利を利用して賢く(?)7000万クラスの都心のマンション買って、休暇には家族そろって海外旅行に行く。30代までは体力があるのでイケイケであるが、40代なると子供の教育費とマンションローンの奴隷になり、夫婦揃って体力のある限り仕事を続けなくてはいけなくなる。もう、そこには輝き続けるパワーカップルの姿はない。そして、くたくたになってマンションローンを払い終えた頃には経年劣化したマンション価値は驚く程に下がっている。

こういう高スペック夫婦は、自分たちは時代の輝く存在としての雰囲気に酔いしれて、高収入であるがゆえに沢山の税金で国に貢献し、高額マンション購入や高額な消費行動で日本経済に貢献し、会社で適宜出世しながら人の何倍を働くことで日本企業(国力)に貢献させられている。これって、バブル時の小貴族(エリート)がリゾートマンションを購入しているのと何も変わらない。  

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