株式市場の時価総額から見える今後の米国相場の動向(相場(国別)の予測分析)

初版 2022.03.05 改版 2022.12.21(旧名:時価総額飽和状態に陥っている世界中の株式市場)

〇時価総額とGDPの国別ランキング

ここで世界銀行が発表した国別の時価総額(2021年)を参照すると

1.米国  40兆ドル 2.中国 12兆ドル 3.日本   6.7兆ドル 4.香港    6.1兆ドル 5.カナダ   2.6兆ドル 6.インド   2.5兆ドル

一方、GDPの世界ランキング(2022年)は、

1.米国  25兆ドル 2.中国 19兆ドル 3.日本 4.9兆ドル 4.ドイツ  4.3兆ドル 5.インド  3.5兆ドル 6.イギリス  3.4兆ドル

となっている。

・米国株式市場の時価総額のGDP比は、2012100%2019150%。そして2021200%近辺で推移している。ここ30年程度は、巨大多国籍IT企業(マイクロソフト、インテル、GAFA等)が引率して100%超えを常態化させているが、今後10年間に米国の株式市場の時価総額が2倍になれば単純計算で80兆ドル。1.5倍でも60兆ドルに膨れ上がる。しかし、GDPが株の時価総額上昇に追いつくために年率5%成長を維持するとは到底考えられない。これ以上の時価総額膨張はGDPとの乖離を大きくするだけである。そもそも株式市場の時価総額はGDP比で100%を超えると危険水域と見なされてきた。それでも、様々な要素から200%の水準を肯定できたとしても300%近くまで乖離するのは現実的な値ではない。逆に、今後は膨れすぎた時価総額という風船に対して実経済への乖離を縮小する方向に向かうと考えるほうがが妥当であろう。

・成長著しい中国も時価総額という点では、上海や香港(ハンセン)指数を合算すれば100%近辺に到達しており、中国経済の発展を株式市場は相当において織り込んでいる。実経済においても、21世紀前半に世界経済を支えてきた中国経済に偏重が出てきた。中国経済の国富は世界の工場で築かれたものではなく、驚くほどに上昇した不動産価格が運んだ富によるもの。その不動産市場も、恒大グループに代表されるように曲がり角を迎えている。共産党政府は、日本の二の前にならないように秀逸な対応や政策を打ってくるのは間違いない。しかし、不動産価格がこれ以上の上昇をして、中国の富を膨らませていくのは到底困難である。そして不動産低迷の中で株式市況だけが膨れ上がることは考えにく。

・そして日本。失われた30年と言われているが、時価総額という点ではバブル期の最高値を超えて久しい。さらに、GDPから見ても株式市場は十分すぎる程に膨れ上がっている。ただ、その膨れ上がったマネーが一般大衆に浸透していないから実感が湧かないだけである。

〇米国企業の利益創造力の強さと一極集中

 時価総額の膨れ上がりにも関わらず、米国及び世界の主要企業のPER20前後と合理的な水準を維持している。特に米国企業は、今後も旺盛な自社株買いと増収増益を続けていくことが見込まれ、そういった意味では株式相場は今後も膨張を続けていく素地を残している。過去10年間の米国株式市場は、一極集中の黄金時代であった。そして、その旨みはインデックス投資に凝縮されていた。一方、 米国以外の先進国市場は成熟期を迎えて久しい。西欧諸国(ドイツを除く)の2000年以降のインデックス指数は全くと言って上昇していない。中国も米国を伺うまでの経済大国になってはいるが、上海市場はリーマン・ショック前の高値から67割の水準でしか推移していない。2000年のドットコム・バブル、そしてリーマン・ショックを経た世界の株式市場において、上昇基調を維持しているのは米国市場だけである。

こういう状況かだからこそ、APPLE3兆ドルを超えてもバブル感がみられないという摩訶不思議な現象になっているのだ。

〇二極化を飛び越え、インフレへ

 金融市場は天空を舞うように膨れ上がっている。それに追随するかのように不動産市場も天空のような高騰を繰り返している。しかし、金融資産の高騰が実経済の物価に少しずつしか浸透していなかった。これは市中にマネーが流れ込んでいないことを意味する。つまり、マネーは富める者の周辺を徘徊するだけで、そうでないものとの極度な二極化が水面下で起きていることになる。しかし、この二極化もある程度飽和状態になると、余剰マネーは物価高騰に化けて実体経済になだれ込むことになる。

 

〇インフレ圧力と日進月歩の科学技術発展のせめぎあい

 FRBは、「インフレを放置するとやがてはその対峙に苦慮してしまう。70年代のインフレはポール・ボルカーの金利20%という荒療治で鎮圧した」という苦い経験している。このため、インフレを野放しにすることを容認しない。」と発言している。

 市場は「今日のインフレはそもそも80年代とは時代背景が異なっている。世界はグローバル化の進展によって為替レートの低い国から大量の商品がなだれ込み、値上げ圧力を相殺している。さらに、日進月歩の技術革新は製造コストを大きく削減することに成功した。ここ当分の間、世界は低インフレ基調で推移するのが妥当な見方であり、高インフレは一時的なものに過ぎない。」と判断している。

 これを実際の生活に当あてはめると生産技術の向上によって、いまや多くの商品が100円ショップで購入できるようになった。文房具を一つとっても、30年前なら数百円もする商品とほぼ同等の商品が100円ショップに並んでいる。パソコン、電化製品等も30年前と同スペック商品なら叩き売りの価格で購入できる。

 このように、金融市場と日進月歩の科学技術の恩恵を受けた実経済の間でインフレ具合の綱引きをしている。

 

〇次なる上昇波動はインフレ終息後

 対GDP比でみても株式市場は膨れ上がりすぎいているのは誰の目から見ても明らかである。実のところ、金融市場は21年中頃をピークに一進一退の動きに転換している。膨れ上がった風船に対し、インフレによって貨幣価値の調整を図っているのは明らかだ。

 幸いにも、このような流れに対し、日本は未曾有の円安に助けられて、投資家はその被害を免れているだけでなく、円ベースでの運用資産は22年以降も上昇基調を維持している。さらに欧米のような深刻なインフレに見舞われていないため、日本の投資家にとってはこの円安は神風と言っていいかもしれない。

 欧米の金融市場は次なる上昇基調に備えて、高インフレによって実経済と金融市場の貨幣価値乖離の調整を続けており、この乖離に一定の目途がつくまで、金融市場は今のようなシーソー状態を続けていくものと想定される。

 しかし、もう一方の視点で見れば、AIに代表される技術革新が次のバブルを誘発し、上記調整をぶっ壊し、更なる上昇基調と時価総額の膨張を演出するかもしれない。

 そういった意味では、今まで以上にGAFAM+テスラの技術及び企業業績の動向を注視していかなくてはいけない。

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