投資家視点の戦後経済(3) 神武景気と岩戸景気 

1.数量景気と神武景気(19541957)

金融引き締め策で停滞していた経済は、1954年中頃には、世界的な好景気に支えられ、海外向けの輸出が大幅に増え、1955年の国際収支は535百万ドルの黒字を記録した。そして、1人当たりの実質GNPが戦前のレベルを超えたことが、白黒テレビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫のいわゆる〈3種の神器〉などの耐久消費材の普及に繋がった。1956年には、第二次中東戦争によって国際商品相場や海上運賃が高騰し、国際収支は前年の8割増を記録したことで空前の設備投資ブームが起き、鉱工業生産、農業生産、国民所得がいずれも2桁の伸びを記録した。こういった状況を受けて、1956度経済白書では「もはや戦後ではない」と明言するまでに至った。

しかし、民間産業の旺盛な設備投資意欲は、原材料や高性能の生産設備の輸入を増加させ、国際収支は38百万ドルにまで減少して外貨不足に陥った。政府は国際収支の悪化を食い止めるべく、1957年春に2度にわたって公定歩合を引き上げたことで、資金の流れが悪くなり内需不振に陥った。さらに国際商品相場と海運運賃の下落から輸出が低迷し、6月に神武景気は終焉を迎え、なべ底不況に突入した。

この好景気は、195412月から1955年までは、数量景気とも呼ばれたが19576月まで、約31か月に渡いた事と、日本の歴史上、経験したことのないほどの好景気という意味も込めて、神武景気と名づけられた。この景気の特徴は、経済の過熱によるインフレを伴わなかったことから、日経平均株価も朝鮮動乱と比べ緩やかな上昇となり、 19575月に595円のピークを付けるに留まった。

 



 2.なべ底不況(19571958)

なべ底不況は、設備過剰による在庫の急増によってもたらされた内需不振で、業種別では電力・陸運業などの一部を除き全面的に業績が低下、減配・無配になった企業が目立った。一方、成長産業である電機、精密、自動車産業などへの影響は軽微であった。1958年の経済白書では「なべ底論」を採用し、「不況は中華鍋の底をはう形で長期化する」という見解を示した。しかし、1958年から3回にわたる公定歩合の引き下げによって、鉄鋼や重化学工業などが好転した。日経は195712月に471円を底に上昇相場に転換し、19587月には、580円台までに回復した。これ以降、日本経済は1958年後半からの岩戸景気に突き進むことになった。


3.岩戸景気(19581961)

岩戸景気では、神武景気を上回る設備投資ブームが起き、ある企業の設備投資が別の企業の設備投資を呼ぶ好循環が続き、1959年は31%増、1960年は41%増、1961年は37%増と驚異的な設備投資の伸び率を示した。工業生産の大幅な向上は、労働力不足による賃金上昇を導いて、その恩恵を被った労働者に中流意識を芽生えさせた。これら新中間層は、三種の神器(冷蔵庫、洗濯機、テレビ)だけでなく小型三輪車、ミシン、カメラ、さらに一部の世帯では高級品である自動車やクーラーまで購買対象を拡げた。そのような旺盛な国内重要の相乗効果で、企業は更なる生産能力の向上⇒生産コストの引き下げ⇒製品の価格低下の好循環を誘発し、日本は高度成長をひた走った。

株価は堅調に上値を切り上げ、602月には千円の大台に乗せた。その頃、日米安保条約をめぐる反安保闘争が激化、新安保条約の発効を待つかたちで岸信介首相が退陣、代わって池田勇人内閣が発足した。池田内閣は国民所得倍増計画を打ち出した。これを受けて、株価はうなぎ上りに上昇し、617月には1829円の高値をつけた。このような証券市場の活況は、日本経済の景況感の織り込みだけなく、①~④による金融相場も絡んでいた。しかし、そのことが後の証券不況の引き金にもなった。


 ①株式投資信託投資ブームが起こり、投資信託の残高は、1955年の595億円から1961年末には1268億円にまで膨れ上がった。


②運用預かりの資金で株式や公社債の自己売買資金に充て、証券会社は株価形成力を強めて推奨販売などで高収益をあげていた。


③株式市場 規模に比べても極めて大きい増資額による資金調達(1959年:1801 億円 1960年:3573億円、1961:6986億円)を行ったことで、株式の希薄化を生み需給を悪化させた。政府は、1965年には増資を一時的に中止した。


④新規上場ラッシュ。1961年に発足した東京証券取引所第二部市場では、上場企業数が市場発足当初の 327 社から、1964 年末には608 社にまで急増した。


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