投資家視点での経済・金融政策の向き合い方 (投資手法の研究)


1.経済・金融政策の著しい進化

〇この100年の間に株式市場には様々な経済変動(大ショック)があった。古くは1929年の世界大恐慌から、日本のバブル崩壊、ITバブル崩壊、リーマン・ショック、そしてコロナ禍危機。米国相場は大恐慌を除けばほぼ右肩上がりに推移してきた。これは米国の政府関係者及び経済学者が、これら発生要因をとことん研究し、大恐慌と同じことが起きないように対策を立てたことに他ならない。

〇一国の経済は国家としての発展期を除けば、「企業の供給>消費者の需要」に収束してデフレ圧力にさらされてしまう。これは株式市場から見ると相場の低迷を意味する。これに対して、中央政府は金融政策や財政政策をすることで消費者の購買意欲や企業の需要意欲を喚起しながら適度なインフレを誘導している。

〇現在では、経済学上で論じられる拡張期―停滞期、もしくは需要と供給間の景気サイクルは、どんな景気停滞に陥りそうになっても、米国の優良企業は毎期のように増収増益を繰り返していることで市場関係者の不安を吹きとばし、自社の株価、さらにはダウ、S&P500指数の底上げし、景気循環サイクルを平坦化させるループを続けている。

〇今の金融技術なら1929年の世界恐慌は、間違いなくちょっとした暴落で済んだであろう。80年代の日本の不動産バブルも今の金融技術を駆使すれば、長期に渡る経済低迷を避けることができて失われた経済にならなかった。リーマン・ショックは、米国政府の世論に押されたゆえの失策であるが、その後のFRB議長の前例のない金融政策によって貨幣の流動性を死守し、さらには需要喚起の点から世界中が協力して大規模財政政策を実施することで大恐慌を回避させた。コロナ禍という未曾有の疫病による世界経済のクラッシュ危惧に対しても、リーマン・ショックを克服したノウハウを応用したことで、欧米諸国の当局はそれを跳ねのけてしまうノウハウすら身につけてしまった。  

こうなると、次なる惨事は、必然的に過去の事例に当てはまらないケースに限られてしまう。実際、「第三次世界大戦を思わせるような戦争」、「巨大隕石による地球への壊滅的な打撃」等くらいしか大恐慌を引き起こすトリガーが見当たらなくなっている。



2.経済報道と株式市場の著しい乖離

株式市場は、実際には経済活動で生じる余裕資金(余剰マネー)で成り立っている。これは現場感覚に落とせば、将来儲かる又は値上がりすることが分かっていても、購入できるだけの余剰資金がなければその投資に躊躇してしまう。その一方、生活資金に余裕があって潤沢な余剰資金があれば、こういった局面をチャンスと捉えて果敢に投資する。それはプロの投資家も同じで、市場に投資する資金をどれだけ集められるかで株式市場への運用度合いが変わってくる。投資する資金が不足している時は株式運用が活発に行われないため市場は低迷する。逆に、投資する資金が潤沢にある時は株式運用も活発に行われ市場は活況する。このような資金量を制御しているのが中央銀行の金融政策であり、中央銀行は、景気の安定を目的に金融緩和や金融引締政策によって市場に出回るお金の量を調整している。

先進国の経済政策はこのような株式市場の性質を利用し、金融緩和政策に前のめりになっているが、これを繰り返すことで実態以上に金融資産を膨張させてしまい株式市場の活況と街角景気に乖離を発生させてしまった。このため、株式市場が史上最高値を更新し続けても、経済ニュースや街角情報は相場を無視するかのように悲観的な情報があふれている。これは、ほんの一握りの投資家だけがその恩恵に預かっているからであり、大多数の国民に公平な分配がされていない事を示唆している。

例1:コロナ禍の経済パニック

その当時のニュースは、コロナ禍の猛威による経済的な打撃を受けた人たちが発する恐怖記事で覆い尽くされていた。世界各地でロックダウンが頻発して、物流のサプライチェーンは寸断した。多くの人々は1929年の世界大恐慌、軽度だとしてもリーマン・ショック級のダメージを覚悟していたが、株式市場は大規模金融緩和による潤沢なマネーを背景に強気に反転し、GAFAMなどのIT銘柄は最高益を記録することで時価総額2兆ドルを膨らませるだけでなく、ダウ3万を伺うまでなど異様な活況を呈した。一方、経済や時事ニュースを真剣に追いかけた投資家ほど自分自身の今後の不安と次なる相場の二番底を危惧そして投資することに尻込んでしまい、結果的には千載一遇の投資機会を逃すことになった。

その2:コロナバブルの崩壊

21年の中ごろから、世界中で10%近くの深刻なインフレに襲われるようになった。ヨーロッパのみならず世界中に国々で、庶民生活は物価高によって深刻なダメージを受けた。さらにFRBは政策金利を、0%から5%近くにまで引き上げたことで高金利の負担に耐えられなくなり、経営体力のない銀行や企業の破綻、及び企業や個人の債務ローンの延滞が発生した。又、インフレによる物価上昇は、世界中の人々の生活水準を実質的に切り下げてしまい。日々の生活をさらに厳しくさせた。経済ニュースでは欧米諸国が経済破綻に陥りそうな報道に包まれていた。株式市場も、コロナ禍でバブル状態にあったIT銘柄を中心に暴落した。それは2001年のネットバブル崩壊のようにNASDAQ指数は最高値から4割近く値を下げたのと同じ光景に映った。   こういった下落を歴史から紐解いていく景気は長期低迷局面に突入したかに推測できるが、GAFAMなどの大手テック企業はこの局面でも好調な決算を維持したことで株価に下値抵抗線が出来て、2023年にはマイクロソフト社のChatGDP発表によって世界中でAIブームが起きて、IT銘柄は再びバブルに突入することになる。しかし、この恩恵は一部の富裕層と中流層だけが享受するに留まっている。

3.相場を停滞させそうな懸念事項を分析

〇 際限のない政府債務膨張の副作用。

今の時代は、IT技術の日進月歩な発展によりインフレよりデフレを気にするまでに需給環境は好転した。しかしながら、リーマン・ショック、そしてコロナ禍などをきっかけに大規模な財政出動を続けることで、政府債務は雪だるまのように膨張させている。本来なら、政府のデフォルトがチラついてくるのだが、優良企業が好決算を出し続ける限り、株式上昇による新たなる富が創出されることで奇妙なバランスを維持している。最近も、AIやロボット技術の発達により更なる産業革命の芽が巨額な政府債務問題の影響を小さくさせている。

 〇 少子高齢化による人口減少の懸念

少子高齢化は経済成長にはマイナス要因であるが、ここに日本の先例がある。今の日本政府は未曾有の少子高齢化が導く国全体の低成長圧力を対峙するかのように金融緩和策を用いて民間市場に多量のお金をバラマキ続けて、表向きには経済成長のような錯覚を起こさせて各種経済指標や企業の売上の伸びを演出させている。西欧諸国が深刻な少子高齢化を迎える頃には、日本の政策を参考にして政府は多少のインフレを犠牲しながら市場に多量のお金をバラマキ続ける一方、インフレに対する生活防衛策としての低所得者への様々な支援策を打ち出すことで、経済運営のバランスを図っていくものと想定される。

4.それでも定期的に投資チャンスは訪れる

米国市場関係者は長きにわたって優良企業が好業績を維持し続けてきたことから米国相場に対する将来期待は高く、市場参加者は総じて楽観である。しかし、そのような環境下でも程度差はあるが相場は大暴落を繰り返している。投資家は、そんな機会をチャンスに捉えるべきである。

・どこの国も政治家は国民の選挙で選ばれる。このため、政治家は国民からの支持を得ようと限界を超えた財政政策や金融緩和で国民を喜ばせようとする。そういった無謀な政策が次なる暴落の源泉となって地中深くにうずくまっている。そうした結果、株式市場は少なくとも数年間隔に1度はその源泉を爆発させて一時的であるが大暴落を起こしてしまう。

・政府当局に財政再建の機運が高まることにより、株式市場の低迷を放置し続けると、1989年の日本の不動産バブルの対応が後手に回ったように、これまで築き上げた金融緩和の効果をすべて破壊する逆資産効果の泥沼に陥ってしまう。

・推測の範囲を超えないが、中国の不動産バブル崩壊が想定以上に深刻である場合、世界第二の経済大国中国で何らかの暴落が起こり、一時的であるが世界中の金融相場が混乱に陥る。


・一番怖いのは、GAFAM成長性の鈍化が明確になり株式市場が低迷することである。これが起これば世界の資本市場は相当深刻な打撃を被るであろう。これら企業の存在はすでに世界経済において恐竜化してしまっているのだ。もちろんであるが、GAFAMの経営者は世界最高峰の優秀さを誇っており、そう簡単に起きるような話ではない。しかし、投資家はそういったリスクテイクも視野に入れるべきではないかと思っている。 

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