植田日銀総裁就任会見に垣間見る~ルビコン川を渡った金融緩和政策~(時事情報の分析)

 


 
次期日銀総裁は下馬評にすら載らなかった大物経済学者がなりそうだ。そもそも、次を担う日銀総裁や副総裁は、異次元金融緩和の総括が求められ、大胆な軌道修正も視野に入れなくてはいけない。異次元金融緩和を担った当事者が総裁になれば、一歩間違えば過去の金融政策に対する責任を取らされる危険性さえ秘めている。
 しかし、前白川総裁の流れをくむような人が総裁になれば、過度な金融引締め懸念から深刻な景気後退を危惧され、そういった観点では、金融緩和に理解があり、政策修正の過程で責任を取らされる心配のない大物を日本政府が選出したということは、外から見ても非常に賢い人事である。
 植田氏は、ゼロ金利解除で反対票を投じたように自分の信念を曲げない一面もあり、役人肌の黒田総裁とは異なり、金融政策のあるべき姿を追い求める可能性が高い。

1.白川総裁を再考
 私は、この白川総裁を極めて優れたエコノミストだと思っている。日本経済の低迷は、経済構造が少子高齢化に対応していないことを指摘し、異次元金融緩和の限界をはじめから指摘していた。今の状況は当然と言えば当然の結果である。
アベノミクスはそのころ欧米で主流となっていたサブプライム不況を脱出に貢献したリフレ政策の日本版であった。しかし、リフレ派は、比較的平等な社会を構築している日本と裏側では強烈な格差社会である欧米との経済構造の違いを無視し、大規模な金融緩和をすれば、古き良き高度成長期のような日本に戻ることを抱くような発言もちらほら目立った。白川総裁は、こういった意見に対しては否定的であったのだが、余剰マネーが溢れすぎることでの金融市場の活況には触れなかったことが、現状においての低い評価の一因になってしまった。
2.アベノミクスの功罪
 アベノミクスのリフレ政策は、デフレに苦しむ日本にとって一定の効果を与えた。本来なら超インフレを誘導するような過激な金融緩和のはずが、深刻な少子高齢化による景気下押し圧力と相殺され、毒薬のかなりの暴走懸念を相殺していた。
 そもそも、このような金融緩和は日本経済に体力があった1990年代、遅くても2000年代前半にすれば経済が暴走した政策だった。アベノミクスの政策は、制度疲労をおこしている箇所にメスを入れず、金融緩和でひたすら日本市場を再生しようとした。これ自体は間違いがないのだが、今度は日本国としての金融政策余地がどこまで残っているかに焦点が当たってしまう。
3.総裁就任会見
植田日銀総裁の姿勢を覗いてみたが、基本姿勢は以下の通りの金融緩和政策の継続であった。
〇 植田日銀総裁のスタンス
・「基調的なインフレ率がまだ2%に達していないという判断のもとでは、現状の経済、物価、金融情勢を鑑みると継続するということが適当であると考えている」
・「今日本銀行が直面している課題は、いかに工夫をこらして効果的に金融緩和を継続していくかということだ。」
・「政府からの政策で生産性を引き上げるようなインセンティブが付与される中で設備投資が活発になり生産性も上がってくると金融緩和の効果が強まる」

4.行きつくとまで行きつくしかない金融緩和政策
 上記コメントは、日銀総裁の立場でのポジショントークも含まれている。一方、「私が総裁だったら決断できなかったような思い切ったことを決断、実行されたと評価している。」と述べ、評価していると述べながらも暴走しすぎた懸念を滲ませている。
 日銀は、国債を500兆円以上も買い取っている。株式相場もETFの大量買いで市場の機能を歪めている。日本経済は日銀のコントロールなくしては成り立たない状況になり、もはや金融政策を正常に戻すことが不可能になったようだ。

5.基調的なインフレ率2%の困難さ
これは、経済理論ではなく庶民感覚で考えるほうが分かりやすい。
〇サラリーマンの給与が上がらない。会社側は上げる事ができない。反面、仕事量は年々増えている。
〇たとえ給与が上がっても、その殆どは社会保障費などの税金で相殺され、手取りに反映されにくい。
〇会社の福利厚生などの隠れた特典も年々削られている。
〇子供の教育資金と住宅ローンという莫大な出費が控えている。
〇一方、終身雇用は遠のき、定年まで勤め上げるのが難しい。
〇人生100年時代で潤沢な老後資金は必要になる。貯蓄を少しでも増やさないと老後不安が襲いかかる。
こんな現状を目の前にして、物価の値上がりなど誰も望んでいない。
 インフレが起こるとしたら、日本の国力が本当の意味で低下し、原材料高騰に対する価格調整力がなくなった時である。つまり、持続的なインフレは多くの人の破産を促し、、深刻な社会問題を引き起こすことにもなる。

 植田日銀総裁の言葉に垣間見えるのは、この金融緩和はやめられない。どうも、「黒田日銀はルビコン川を渡ってしまった」ようである。

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