エムスリーに見る個別銘柄投資の難しさ
(株式市場の花形である成長株投資)
株式市場をけん引するのは、未来に輝く成長株である。こういった銘柄は、時には10倍どころか100倍程度にまで化けてくれる。10万円を投資すれば1000万円、100万円を投資すれば1億円。まさしく投資家が夢見る儲け話である。一方、成熟した優良銘柄は成長期待が乏しいため、配当面での魅力はあるものの、業績に関わらず5年いや10年を経過しても株価は思うように上昇してくれない。
(エムスリーの大暴落)
エムスリーは、株式市場のスター銘柄であった。株式の時価総額も5兆円を超えるなど米国の優良ハイテク企業の日本版という位置づけで、輝かしいテンバガーを記録した。しかし、そのエムスリーの株価が最高値の8割下落となり、ソニーが経験した2000年のITバブル崩壊時の10分の1の大暴落のような事態を招いている。
とはいえ、エムスリーの業績は株価の変動ほど悪くはない。単に株式市場がこれ以降輝かしい成長を見込めないと判断した結果に過ぎない。
このように特定分野で圧倒的な強みがあって、財務や収益面でも経営者の非凡な才能を発揮しても、国内需要の頭打ちなどで事業成長性に陰りが見え始めれば、市場は非情にもその銘柄を大暴落させ、株価を地面に叩きつけてしまう。
(売り時の難しさ)
こうなると、上昇しすぎた株価に対し、投資家がどのようにして逃げるかの出口戦略を練る必要がある。これは簡単なようで非常に難しい。株価のピークなど誰もわからないからだ。大抵の場合、自分が売却した後も株価は上昇し続け、数倍の値段をつけた後にピークを迎えることがザラである。その時の悔しさが次の成長株投資で失敗を招いてしまう。今度は、前回の経験から売る機会を逃し、最悪は塩漬け状態になってしまう。
エムスリーを例にとっても、株価が下落しているからといっても5000円や7000円で購入したら、取り返しのつかない塩漬け状態となってしまう。成長株においては、誰も妥当な株価水準などわからない。
(個別銘柄に対する長期投資の難しさ)
未来永劫に株価が右肩上がりを続ける事は難しい。それは優良株でも同じである。東芝などは伝統や技術力において申し分のない優良企業であったがボロボロになり、さらに永遠の優良配当株と謳われた東京電力でさえ、原発事故以後は永遠の無配当株となった。それは米国の超優良と言われた企業でさえ例外ではない。GMなど倒産同然に追い込まれる企業も少なくなく、ダウ30の新陳代謝はNIKKEI225の比ではない。超優良企業と目されるAT&T,3M,GEでさえ、長い期間にわたる業績低迷と事業改革に取り組んでいる。つまり、投資した後に何十年も右上がりかつ配当増などの投資家が思い描く幻想にしか過ぎない。
ただ、日本企業と米国企業の大きな相違は、米国の優良銘柄の経営者は株主のためにあらゆる手段を使って停滞を抑えようと最後まで努力するし、世界一厳しい株主が外部の社長を招聘し、スピンオフなどの事業の再構築に着手する。しかし、日本の企業はボトムアップ式の経営スタイルのため、従業員の質の高さで経営が成り立っている。このため、停滞に陥っても安易な人員削減はできず、小手先の改革に留まってしまい、そのツケを株主が被ることになる。個別投資における長期投資は難しいのは確かだが、日本企業のほうがより長期投資に向いていない。
(本当の優良株は長期的に成長分野を変遷させる)
成長銘柄の株価はどこかで瓦解する。それは、市場がその企業の成長性の終焉を判断するからである。しかし、本物の優良銘柄は、それを先取りして様々な成長が見込める新規事業に挑戦し、次の成長分野に育て上げていく。こういう事業の変遷は、多くの日本企業でも行われいるが、大抵の場合は主役となる事業の不振が著しく復活する見込みのない場合、起死回生をねらって傍流と言われた事業の発展に賭けて成功するという程度である。日本では本流の事業が傍流の事業を見下す傾向があり、それが次の事業の成功を拒んでいることも少なくない。なので、次の成長分野が羽ばたくのは、その企業の業績と株価がどん底になった後が大半である。
一方、米国企業、特に優良企業は主役となる事業が当面安定であっても、常に次世代の成長分野への取り組みに余念がない。そういう企業だけは、長期にわたって増収増益、そして増配を繰り返すことができるが、上記にあげたGEや3Mのように成長分野を増やして、複雑なコングロマリット化してしまうと組織が官僚化してしまうことで、凋落の憂き目を喰らうことになる。
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