ジレンマを抱える超優良企業SMC

 SMCは空気圧制御機器を軸とした自動制御機器のメーカーであり、自動制御機器は、基本型約12,000種、カスタマイズ品を含めると約700,000品目という膨大な製品群を誇っている。

(SMCの概略)

1959年4月に焼結金属工業株式会社を東京都千代田区にて設立。創業者は東京タングステン株式会社に勤務していた技術者大村進氏であった。創業翌年の1960年には空気圧機器の製造に参入し、部品から完成品へと事業領域を拡大した。これは、工場内のオートメーションの進行とともに引き合いが増大し、導入コストも安いことが他の自動化機器(機械制御・油圧制御)と比較されたときの優位性であった。1988年の株式上場の時には、売上高の90%が空気圧関連製品になっていた。

SMSの創業期から専務として社の成長を支えた髙田芳行氏が、1989年に社長就任から約30年超にわたりトップダウンでSMCの経営に従事する。その間に、空気圧機器の国内シェアが7割弱で世界シェアも3割強でトップシェアを獲得し、この分野においてはドイツのフェスト社 (Festo) との世界2強を構成するまでに躍進した。2019年には、ご子息の高田芳樹が二代目社長に就任し現在に至る。

(無双状態の経営力)

 SMCはまさに無双状態の堅牢なビジネスモデルを有しており、誰がやっても優良企業を維持できてしまうほどである。

 これらは、前社長が新製品の開発や生産技術の研究に没頭しながら、徹底的なコストダウンの追求を極限まで成し遂げた結果であり、メーカーでありながら営業利益率は25%を維持し、自己資本比率に至っては90%まで高い。製造業に必要な開発・研究においても単年の利益で十分に吸収できてしまっている。さらに株式発行数も抑えているため極限に近いような高値で株価も推移している。まさに、日本の製造業においてトップレベルを競う優良企業である。

それだけでなく、空気圧機器業界の世界市場動向は、2022年に約697.3億ドルとなり、予測期間中に年平均成長率7.13%で拡大し、2029年には1,129.2億ドルに達すると予測されている。これをそのままトレースすれば、SMCは苦労することなく増収増益を達成やすい環境下にあるということである。

(創業2代目のボトルネック)

 この会社の次なる成長へのボトルネックは2代目髙田芳樹社長の経営力であろう。結論付ければ、私は疑問符を投げかけたい。この社長は、上智大学を卒業後、三菱商事入社。87年SMC入社し、親の跡を継ぐべく社長に上り詰めている。この会社は準創業者である高田芳行が長年にわたり陣頭指揮をとり今の礎を築いてきた。しかし、この人はどうも大王製紙の井川氏と同じような匂いがする。これの意味するところは、親が長年にわたって積み上げてきた経営スキルや空気圧制御技術などの造詣を引き継がないまま経営者になっている。厳しめにいえば、この人には、そのような経営スキルを継承できるだけの資質はないということだ。


(ボトルネックの具体的な例)

私がそのように判断することの理由として、Forbesの記事を参考にすると「謎に包まれた優良企業SMC。成長の鍵はグローバル化」

https://forbesjapan.com/articles/detail/45525/page2

①2代目髙田芳樹社長は、SMCの地味なイメージを払拭すべく改革を進めている。

②いい会社なのだから、社員が家に帰って誇らしく語れるようにしたい

なぜ地味なイメージを否定するのか、技術に造詣が深ければ地味であることに優位性とするはずだ。なぜなら、地味がゆえに不要な競争相手が参入してこないからである。さらに、世間に対して自慢したいと思うようなキラキラ好きな社員を集める事をマイナス点と思っていない。これでは、大学以降の勉強に興味はないがひたすら大学のランクや偏差値にこだわる学歴厨と何も変わらない。企業を本当良くするなら、地方の二流や三流クラスの大学工学部卒でひたすら技術が好きだというような連中を採用したほうがはるかに会社にとって良い。

メーカーの強みは謎のベールに包まれるほどの非開示性だ。他社が容易に参入できないようにすることも戦略の一つであり、その一つが日本が得意とするグローバルニッチである。製造業は、地味であるが日常の作業の鍛錬で磨かれた技術を様々な製品の製造に応用していくものであり、そこにあるのは他社が追い付けない圧倒的な技術力であり、それを常に磨いていける風土である。つまり、特定の分野に対して、他社が近づけないような圧倒的な技術力やノウハウを保持し続けることで、それに売り上げがついてくるということだ。

③1兆円の売り上げを目標とする。

市場が大きくなりすぎると西欧だけでなく、中国などの優秀な技術者が本気になって参入してくる。そうやって日本企業の多くが駆逐されたという現実を直視していない。これもマスコミやアナリストの喜ばれるために目標でありあまりにも軽薄である。

④「世界を舞台に仕事をしたいという思いから商社に就職。燃料部でLNGを担当したが、「契約が決まると下っ端はすることがない。LNG船から油が漏れて夜中に海に中性洗剤をまきにいくなど、雑用ばかりでした。たまに海外に出張しても自社の駐在員と話すだけで、何か違うなと」

 これをHOYAの鈴木元社長に言わせたら楽して儲けられる仕組みこそ商売の神髄である。一番ダメなのは一生懸命頑張っても利益の得られないことである。ここまで来ると経営者としの資質はゼロに近く、この社長就任は、子供可愛さだけが先行した人事と言えなくもない。

(投資対象としてのSMC)

 投資家は優良企業に投資しても、確実な増収増益を勝ち取る企業でなければ投資家としての見返りはそれほどない。SMCはこれからも優良企業であり得るだろう。しかし、売り上げは伸びることは期待できても、脇の甘い経営が災いしコスト面は増大し、営業利益率は長期的に低下していくことが予想される。このため、株価の上昇率も限られるかもしれない。ただ、優良企業であるがゆえに当面の間は配当を増やしていくのは可能なのと、エムスリーのような短期間での株価暴落も想定にしにくいので、配当利回りが4%超えるような場面に遭遇したら、配当銘柄としての投資もあるのかもしれない。

 これは技術動向に私が弱いので何とも言えないが10年単位の視点で技術革新などの要因で空気圧機器業界のトレンドが変化することがあったら、今の社長なら乗り切ることは不可能であろう。

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