TSMCの日本進出から垣間見える日本人の西欧人化
(日本企業の相対的な地位の低下)
つい最近まで、日本企業における日本人従業員の給与は東アジアでダントツに高かった。成熟した高所得国である国が経済発展を続けるためには、新陳代謝を繰り返しながら新技術で世界を席巻し続けるか、生産性の向上に活路を求めざるかのどちらかしかない。それは官僚化するオールドエコノミーに依存せず、アントレプレナーを育てて新たな産業を作り続けることにある。日本はこういった循環が停滞している間に、中国や韓国、台湾は日本の得意とする分野に猛追し、そして追い越すまでになった。
(TSMCの日本誘致)
そのような現状を打開する手がかりとして、TSMCの熊本工場進出が出てきた。日本国民の性格上、韓国、台湾、中国の大企業が自らの戦略で日本に工場を建設して一大製造拠点にするとしたら、マスコミを含め多くの日本国民は拒否感を抱くであろう。この案件は米国主導の安全保障問題から始まったサプライチェーンの再構築の一部であるが、日本政府側も約1兆円以上の巨額の補助金を付けるなど、TSMCに対し強烈なアプローチをして熊本誘致したことには違いない。
日本政府から見ると、日本には優秀な技術者がたくさんいる。没落しかかっている日本の製造業に対し、世界一の半導体メーカーから成功の手ほどきを学んでもらう。TSMCから見ると日本の潜在的に優秀な技術者を発掘し、企業競争力をさらに高めていく。そんな思惑が見え隠れする。
(日本とは異なる労働文化)
実際に工場を建ち半導体製造がスタートすると、そこには日本とは全く異なるドラスチックな世界があった。賃金は欧米企業水準の高給であるが、労働体系は、ブラックどころではない労働環境+米国流の実力主義がハイブリットされていた。スキル有無に関わらず根回し文化で年功序列の社員を大切にする日本の企業文化などは存在しない。
このように勤勉と言われた日本でさえも、TSMCからは日本人は思ったより能力が低く働きも悪い。という声も聞こえてくる。この違いこそ、中国や台湾などの企業が日本を押しのけて世界を制覇してきた源泉であり、日本においても西欧に追いつき追い越せと寝る間を惜しんで働いた高度成長期の残像を垣間見ているようだ。
(米国政府のしたたかさ)
米国政府は、そんなTSMCに最先端の半導体工場を強制的に作らせている。しかし、TSMCの製造文化をそのまま米国に持ち込むには無理がある。このため、工場稼働がなかなかできない状況下にある。とはいっても、政治的な戦略での工場建設なので頓挫することはない。
台湾メディアは「半導体生産にアジア人が必要であることはこの事実が証明している」「米国人はこの作業モデルに慣れていない」「米国がTSMCに現地での半導体生産を望むのは不可能だ」などと報じる者もいる。
しかし、台湾メディアの考えはかつてのジャパンアズナンバーワン時の日本企業が勤勉さに欠ける米国企業を見下すように論評した日本のマスコミと瓜二つだ。米国政府は巧みな戦略を打って出てくるのは間違いない。例えば、米国で製造したもの以外は購入しないなどのケチをつけることなどして、何らで米国での稼働に踏み切らせる。厳しい仕事は比較的に安価な移民にさせて、重要な技術ノウハウを白人エリートに身につけさせる。そうして、コアとなる部分の技術を修得したら、インドや東南アジアなどの新興国に工場を展開し、自分たちの都合の良いサプライチェーンの仕組みを構築する。かつては隆盛を誇った日本の半導体も米国のしたたかな戦略に翻弄され、中国、台湾、韓国に技術が流出し、やがて衰退の道を辿ってしまった前例がある
(時代の変化を痛感)
日本人は真面目、ブラック企業だらけだということを長く言われ続けたが、TSMCの労働形態を見れば昔日の残影である。そういった状況を顧みず、ひたすら高度成長期を懐かしむ。これでは社会が混迷を極めるのはもっともなことである。今の日本は、週休3日の導入や、育児女性に対する社会的な活躍の場の提供など、まさに先進国の一員として西欧圏の生活スタイルが少しずつであるが定着している。そういう日本に対し、かつてのような製造大国にもう後戻りはできないとことを突きつけられているようでもある。
さらに、米国と中国が火花を散らしているAI、ロボット、宇宙などの最新分野において、かつてのような日本の隆盛など起こりえないことすら示唆している。
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