長期投資の神髄

 (偶然がもたらす転機)

俳優がスターダムに上り詰める際、不思議なことに、主役が何らかの理由で降板し、代役として抜擢されたことがきっかけで表舞台の脚光を浴びる例は少なくありません。これは、本人の実力だけでなく、運や偶然がその人に味方したという側面が大きいでしょう。言い換えれば、「玉突き」のような偶然が作用した結果です。

この玉突きがなければ、たとえその人が相当な実力を有していたとしても、表舞台に立つことができなかったかもしれません。世の中には、こうした偶然の連鎖によって、人や物事が大きな転機を迎える例が数多く展開されています。

(実力あっての「玉突き」)

しかし、この「玉突き」を単なる運と片付けてはいけません。実のところ、このような幸運は誰にでも起こり得る稀ではない出来事です。重要なのは、活躍の場を得た後に、そのチャンスを最大限に活かせるかどうかという点です。ここにこそ、個人の真の実力が試されます。

スターは、大舞台で実力を発揮し、大物へと成長していきます。しかし、実力が伴わなければ、せっかくの機会を得ても脚光を浴びることなく、そこで終わってしまいます。自分に幸運が訪れた時、その実力を遺憾なく発揮できるように、日頃から訓練し準備しておくことが大切なのです。

(投資における「運」の側面)

いかなる相場においても、後付けで分析をすれば、誰もが知るテンバガー(10倍株)や大儲けを可能にした銘柄は必ず存在します。例えば、リーマンショックのような大暴落時でさえ、底値で購入して半年から1年放置すれば、2倍〜3倍になる銘柄は数多くありました。大暴落で多額の評価損を被る投資家は、相場が比較的良好な時期に高値で銘柄を購入していたという、単なる投資タイミングの差に過ぎません。

 このように、投資タイミングは、もはやファンダメンタル分析の枠の外に存在します。 相場は波であり、中短期的にはその波はランダムに動き、予測は困難です。このため、小さな波動で勝負するのか、長期波動で勝負するのかで、投資手法や考え方は全く異なってきます。短期的な株価が、企業のファンダメンタルをどこまで織り込んでいるかなど、誰も正確には分かりません。だからこそ、どんなに徹底的に調査をし尽くしても、株価が自分の思うように動かないのは半ば自明であり、投資にはどうしても「運」という要素が付きまとうのです。

(長期投資の真髄は「信じ抜く行為」)

長期投資の真髄は、その企業の10年後の売上や利益が、現在の1.5倍から2倍になることを信じる行為です。しかし、現実には、ブランド力や事業競争力があり、堅牢な優良企業であっても、組織が官僚的になり、斜陽期を繰り返すことで、株価が長期低迷期に陥ることは少なくありません。 長期投資家の真髄は、そんな時でさえ、その企業をひたすら信じ、回復を待ち続けることにあります。

 一例として、GE(ゼネラル・エレクトリック)は2000年頃まで世界トップの名門企業としての地位を謳歌しましたが、その後は事業の解体危機まで追い込まれました。株価もGAFAMの隆盛をよそに、かつての10分の1にまで下落しました。ネット掲示板では「ボロ株」と揶揄され、エコノミストの評価も「再興できる事業がない」と散々なものでした。

 しかし、そういった厳しい状況下でGEという会社の潜在的なポテンシャルを信じた者は、長い冬の期間を耐え忍び持ち続けることで、結果的にドルベースで5倍、日本円なら8倍程度のリターンを得ることになりました。長期投資家とは、投資する企業をひたすら信じ切り、それ以降は何があろうとも持ち続けるという行為に他ならないのです。

(復活を後押しする「時代の応援」)

ただし、GEが自社の努力だけで復調したわけではありません。そこには、脱炭素という世界的なムーブメントの中で、今まで嫌われ者であった原子力技術が電力需要を満たすために脚光を浴びたことや、GEが得意とするエンジン技術の需要が爆増したことなど、時代のトレンドが味方したという理由があります。GEは、その機会を活かせる技術力と経営体制を保持し続けてきたに過ぎません。

 つまり、これも違った意味での「玉突き」と言えます。現時点でどんなに評価が低い状態であっても、その企業が持つ技術力が確かなものであれば、数年後、あるいは10年後の時流トレンドに合致し、大きな転機が訪れる一例です。

 今は相手にされなくても、突然これまでの主役が降板し、メインキャスターに躍り出るように脚光を浴びる。長期投資は、コカ・コーラやジョンソン&ジョンソンのような長期的に安定した右肩上がりだけでなく、三菱重工のような高い技術力を持つ企業に対し、誰もが見向きもしない時にこっそり買って、10年、20年放置することにも該当するのです。

(我慢こそ長期投資家の真の資質)

 ネットでインフルエンサーが連戦連勝の記事を発信している反面、自分の投資銘柄は事業内容や財務諸表に申し分ないのに株価が冴えない、という状況はよくあります。しかし、自分の投資スタンスが間違っていると思い込むのは間違いです。 なぜなら、時が来て、この銘柄が表舞台に立ち、株価を数倍に引き上げる瞬間が来るからです。

 ただ、このような「天邪鬼な投資」は、ある程度資金的な余裕がある人でなければ難しいでしょう。例えば、30歳で20年後の未来を信じ、値動きの悪い銘柄に虎の子の資金を投じるのは困難です。それよりも、目の前で確実にリターンが得られるGAFAMなどの優良銘柄に投資したほうが、中期的な期待リターンに見合うからです。

 しかし、相場は天邪鬼であり、投資家の思うように動いてはくれません。 どんなに企業分析をし、ファンダメンタルを熟知しても、相場は自分の意図に背くような動きをし続けます。そして、我慢の限界を超えて売り払った後に、上昇トレンドに移行する。 気が付けば数倍になっている。

 そういった意味では、長期投資は本当は超越した投資法なのかもしれません。一度購入したら、株価を見るのは1年に1回程度。そして上がろうが下がろうが気にしない。感情に振り回されず、ひたすら信じて待ち続けられる人にこそ向いている投資法なのです。

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