日銀の利上げは「真面目な中間層」への“ご褒美”に変化
(官邸との「共鳴」で動き出した利上げの機運)
植田総裁と高市総理の11月18日の会談を契機に、日銀高官から利上げを示唆する発言が相次ぎ始めた。この一連の動きは、政府側が金融政策の正常化へ向けて一定程度の容認姿勢を示したことの表れと推測される。
「景気認識『日銀と食い違いない』 植田総裁の早期利上げ示唆で―片山財務相」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025120200457&g=eco
(植田総裁が懸念する「欧米の轍を踏まない」政策)
「日銀・植田総裁『調整が遅れると混乱引き起こす』利上げが後手に回らないよう対応する考え示す」
https://news.yahoo.co.jp/articles/3a555561615e8065dcba30c1ad371a41762b06bf
ここで注目すべきは、植田総裁は「現在の金融市場はまだ緩和的な状況にあり、アクセルを踏んだ状態だが、その踏み方を調整している」と述べ、「緩和度合いの調整が遅れれば欧米のように高インフレに陥り、政策金利を4〜5%に引き上げざるを得なくなる」と警鐘を鳴らしたことだ。
この発言は、前回までのデフレ懸念を一掃し、これまでの日銀会合が政治的な動向を強く意識して運営されてきたことを示唆する。責任を最小限に抑えつつ、政策を前に進める――まさに秀才としての面目躍如と言えるだろう。
(物価高に苦しむ庶民と「新たな格差」への政府のジレンマ)
高市総理は従来、金融緩和派であり、利上げには強硬に反対してきた。しかし、今回容認した背景には深刻な物価高の収束を図る狙いがある。物価高は政権支持率に直結するからだ。
ただし、現在の日本経済は20年前のデフレ期とは構造が大きく異なる。株高・不動産高騰で富裕層の資産は厚みを増し、インバウンド需要は海外との物価差を利用した値上げを容易にした。その結果、庶民が物価高のしわ寄せを一方的に受けている構図は欧米と共通している。
とはいえ、安易な金利引き上げは、競争力のない中小企業や多額の住宅ローンを抱える層に影響する。政府の本音としては、金利をあと2回程度引き上げ程度で押さえたいというところであろう。しかし、歴史が教えるのは、インフレ経済へ一旦転換すれば、そう簡単にその勢いを止めることはできないという厳然たる経験則だ。
(FRB議長交代という波乱要因)
一方、米国ではFRB議長が交代すれば金利は大きく下がる可能性がある。日米金利差の縮小は、円キャリートレードの逆流などで円高傾向に向かう可能性があり、国内の物価上昇圧力を低下させるだろう。結果として、日本の金利引き上げ圧力も弱まる可能性がある。また、円キャリートレードの縮小は、カネ余り相場の助長を和らげ、AI関連バブルに沸く世界的な株高を一服させる引き金にもなりうる。これらは推測の域を出ないのでそうならないかもしれない。経済状況を注視する必要がある。
(金利引き上げは新たな格差を助長)
実際のところ、利上げは日本経済において中間層内部の格差を助長する側面を持つ。なぜなら、日本人は世界でも稀に見る圧倒的な現金・預金保有国だからだ。長年勤め上げ、退職金などで数千万円の資産を形成した層にとっては、これは大きな追い風となる。具体的には、金利が上がれば個人向け国債の利率は1%超を優に超え、社債などの半元本保証商品は2〜4%で発行されるだろう。例えば、3,000万円を預ければ年間60万〜90万円、5,000万円なら100万〜150万円の利息が期待できるようになる。65歳で定年を迎えた後、この月5万〜10万円の利息収入が、年金(国と確定拠出などの企業年金)と小遣い程度のバイト収入に加わる構図だ。これにより、老後を不安視する層は大幅に減少する「はず」だが、十分な資産を築けなかった層との間で、老後の格差が鮮明に表面化し始めることになる。
(真面目な人が報われる社会)
とはいえ、これは悪い話ではない。それは「さしたる才能がなくても真面目に勤め上げれば報われる」社会の再構築になるからだ。株式投資は、リスク回避傾向の強い多くの日本人にとって相性が悪い。実際、暴落などの過度な市場変動や、優良銘柄でさえ発生する含み損に耐えられる国民は多くはない。投資の世界は、専門家ですら相場を的確に予測できない魑魅魍魎な渦中であり、知性的な一面に包まれながらも実態は博打の域を超えていない。。
とはいえ、株や不動産に投資しなければ億単位の資産形成は難しいのも事実であるが、大多数の国民はそういう金持ちを目指したいのではなく安定的な生活を望んでいるのである。つまり、大多数の国民が政府に求めているのは、「突出した才能がなくとも、真面目に働き社会に貢献した人が報われる」ような安定的な社会の仕組みなのである。
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