キヤノン分析 事業構造改革とカリスマ御手洗の後継問題

キヤノンは、日本を代表するカメラ・複写機事業を主力としてきたが、これらの市場は成熟・縮小局面に入り、特にプリンタ事業は世界的なペーパーレス化やESG圧力によって需要が構造的に減少している。このため、過去20年ほど売上は伸び悩み、収益も低迷していた。

しかし近年は、半導体製造装置・医療機器・ネットワークカメラ(監視カメラ) へ経営の軸足を移しつつあり、その成果として業績は回復基調にある。

実際、2025年上半期の売上高は 2兆1,986億円(前年同期比+2%) と過去最高を更新し、2024年通期でも 4兆5,098億円 と過去最高水準を記録している。

■ 再成長を支える三本柱

① メディカル

高齢化社会の成長性を見据え、キヤノンは東芝メディカルを買収して事業規模の拡大を図った。現在、CT・X線装置が北米を中心に好調で、営業利益率10%を目標とするなど収益性向上も期待されている。

キヤノンメディカルは今後のグループ成長を担う第二の柱として位置付けられている。

② ネットワークカメラ(監視カメラ)

世界的に防犯・都市監視、AI解析などの需要が急拡大する中、ネットワークカメラ市場は高成長が続いている。キヤノンはAxis社・Milestone社の買収により世界トップクラスの市場地位を確立しており、イメージンググループ全体で 売上1兆円規模 を狙える成熟した事業となっている。

③ 半導体製造装置(NIL:ナノインプリント)

キヤノンのナノインプリントリソグラフィ(NIL)は、①5nm対応 ②EUVの1/10コスト ③電力消費90%削減といった強みを持ち、半導体製造プロセスを変革し得る技術として高く評価されている。

2024年には Texas Institute for Electronics(Intel・Samsung参画) へ装置を初出荷し、キオクシアは量産ライン採用を検討、DNPは1.4nm対応テンプレートを2027年量産予定など、事業拡大に向けた動きが進んでいる。

一方で、量産歩留まりを90%近くまで引き上げる必要があるなど技術課題は残っており、EUVを全面的に代替するというより、新設ラインや特定層での部分採用 が現実的とみられている。

■ キヤノンの今後:経営体制と課題

キヤノンの経営は長年、創業家の 御手洗冨士夫氏 の強いリーダーシップのもと進められてきた。しかし同氏は90歳となり、後継体制の構築は喫緊の課題である。過去に2度社長交代があったものの、いずれも御手洗氏が復帰しており、後継者の選定に難航している状況がうかがえる。

また、事業構造転換が完了していないため、御手洗氏が依然として前面に立ち続けている背景もある。

現在の次期社長候補としては、

小川氏:海外4地域のトップを歴任した唯一の人物(海外売上比率80%の企業構造で重要)

武石氏:半導体装置・メディカルなど成長分野の中心人物(構造転換のキーマン)

と報道されている。

組織運営の安定性を重視するなら小川氏が適任だが、成長分野をさらに加速させるためには武石氏の力量が欠かせないとみられ、御手洗氏としても簡単に後継者を決められない状況が続いていると推察されるが、最終的には小川氏が社長就任する事になった。

■ 長期投資家の視点

キヤノンは、御手洗体制の長期的な継続によって、企業としての安定性を維持してきた。しかし、同氏が何らかの事情により経営の第一線から退いた場合、その後の経営体制次第では組織の混乱リスクを否定することはできない。

主要事業である複写機市場は、中長期的に見て縮小が避けられない状況にあり、その他の事業についても、依然として「挑戦者」の位置づけにとどまっている。構造改革はなお道半ばであり、今後はいずれかの事業を市場トップレベルにまで引き上げることが求められる局面にある。

現経営陣の一人である小川氏は早稲田大学文学部の出身である。同氏の経歴からは、組織運営や調整力といった面での統率能力は期待できる一方で、技術や理工系分野における専門的なバックグラウンドは必ずしも強みとは言えない。そのため、キヤノンが「挑戦者」の立場から脱却できるかどうかは、部下である技術部門トップの戦略判断や実行力に大きく左右される構図となる。

長期投資家の視点から見れば、キヤノンは今後も日本型コングロマリット(いわゆるJTC)としての地位を維持していく可能性が高い。一方で、株価の中長期的な成長余地は、後継体制の安定性および新経営陣の経営手腕に大きく依存すると考えられる。

株価が3,000円台にある局面では一定の「買い余地」は認められるものの、明確な成長ストーリーを描ける状況には至っておらず、右肩上がりの株価成長を確実視する段階ではない。現時点では、高値追いについては慎重であるべきとの判断が妥当であろう。

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