HOYA株式会社 その2 カリスマCEO引退による今後 

HOYA株式会社の前CEO鈴木洋が22年6月の株式総会を持ってHOYA経営から一線を退きました。この経営者の凄いこところは、中堅企業に過ぎないHOYAに対し日本を代表する勝ち組企業にまで押し上げたことです。売上高が5千億円に満たない中堅企業にしか過ぎない企業の株式の時価総額を6兆円強まで引き上げた手腕には驚くべきものがあります。

実際、鈴木前CEOが就任した2001年当時の売上は3000億円程度です。それから20年の間、HOYAの売上高は5000億円程度にしか増えていません。しかし、非情ともいえるコスト削減と不採算部門の撤退により、HOYAは常に高収益決算を維持してきました。こういった高収益の事業体であるからこそ、ちょっとした売上増が多大なる利益増加を生むことになり、それが長期にわたってHOYAの株価を押し上げることにもなります。

2.後継者の課題

カリスマ経営者の後に更なるカリスマが登場する事は難しい。これは何をいっているのか。経営は教科書通りに進めてもその通りにいかないということである。優秀な経営者は、目に見えないところで些細な問題点を日々潰して経営を安定させていくのである。これは見える人に見える。見えない人には見えない非常に微妙な能力である。もう一つは、オーナー家やカリスマ経営者は絶対的な権力で経営をできるが、サラリーマン経営者は絶対的になれない。そうするとある程度の能力が発言力のある高級幹部の意見が通ることで人閥が生まれてくる。人閥による調整の積み重ねが会社経営を行き詰らせていく。そんな中では、前鈴木CEOが幾度も行っていた非情なまでの事業のリストラを今後も続けられるかに疑問が残る。

3.長期的には利益率低下の恐れと創業家復活

恐らくだが、2~3年は安定的な決算を残すかもしれないが、5年後にはHOYAの利益率の低下が懸念される。それは積み重なった負のファクターが表面化する時期と重なるからだ。ただ、HOYAという事業体を山中と鈴木家が手放すはずはない。おそらくだが、次の経営者は創業家に戻るであろう。しかし、鈴木前CEOと同世代の山中家とは関係が悪い。当然だが、前CEOは山中家に経営権を渡すと思えない。

創業家に戻すとしても、嫡男などの自分に近い人物を引き上げるはずだ。それをゆっくりと見定めている可能性もある。しかし、嫡男などの経営手腕も未知数であるが、かつての鈴木前CEOが父親である鈴木哲夫氏が裏で支えられたように、鈴木前CEOは裏側で今の経営陣をコントロールする可能性は否定できない。

4.長期投資から中短期投資への視野

HOYAは、日本企業と思えない程の厳しい利益管理をしてきた会社である。この会社は日本社会の公共的な責任を負う経営ではなく、米国のような株主を優先する企業であった。そして、その源泉は、小さいけど市場の対して優位性のある製品群と非情なまでのコスト管理で支えられていた。これは相当優秀なカリスマ経営者でしかできない芸当であることを忘れてはいけません。もっと直接的に言えば、カリスマ経営者によって企業規模と比較して釣り合わない株価水準を長期に渡って維持し続けているということである。

投資家はそれを意識しながらHOYAに投資すべきである。そろそろプレミアを取り除いた視点でこの銘柄と向かうことを求められているのかもしれません。

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