高市政権の限界

 日本は、高市政権に大きな期待をかけている。しかし、高市政権が国民を良い方向に誘導するのであろうか。そんな観点で私見を述べる。

(日銀政策の中途半端さ)

 日銀は1月に金利を引き上げて以降、6回連続で利上げを据え置いた。その理由は前半は「トランプ関税」の影響で、仮にそれがなければ7月頃には0.75%への利上げが行われていた可能性が高かった。10月には日経平均が5万円を超え、利上げの絶好の機会であるにも関わらず日銀は見送った。背景には高市内閣への配慮があるとされる。 米国当局は、日本に対して健全な経済運営を促すよう忠告している。実際、ベッセント米財務長官はX上で「日本政府が日銀の政策余地を認める姿勢は、インフレ期待の安定と過度な為替変動の回避に極めて重要である」と投稿し、日銀に対し、利上げを求める主張を繰り返している。 日本はすでにインフレ経済に突入しており、物価高対策が喫緊の課題となっている。政府はガソリン減税などによって物価抑制を図ろうとしているが、本来であれば不要な減税ではなく、金利を正常な水準に戻して物価上昇抑止効果を働かせることが先決である。日銀は政府に忖度して、本来あるべき金融政策を行えずにいる。

            geminiより作成

(高市内閣の誤謬) 

高市総理が所信表明で述べたのは経済対策である。すなわち、総理の認識では日本経済は深刻な苦境にあるということだ。一方で、日経平均は史上最高値を更新し続けている。この乖離は何を意味するのか。 日本において真の意味で好景気だった時期は限られている。高度成長期の最中でさえ、映画『男はつらいよ』に登場する「くるまや」やその周囲の人々は万年不況であった。要するに、経営力の乏しい中小企業は、どの時代でも不況に苦しんでいるのだ。政治家はそうした層の声を無視できない。なぜなら、選挙での支持を失うからである。高市内閣はこの誤謬に囚われ、本当の意味で日本の成長を促す政策に取り組めない可能性が高い。

(日銀の金利引き上げのあるべき姿)

 日銀が利上げを行えば、経営力の弱い中小企業に打撃が及ぶのは避けられない。しかし、それを懸念して利上げを見送るならば、政府は永遠に金利を正常化できないというジレンマに陥る。 本来は、金利を引き上げたうえで、その影響を受ける企業に対して一定期間、政府が金利上昇分を補填するなどの支援策を講じるべきである。その間に円は今より高めに推移することが期待され、材料費などの価格上昇を圧力を和らげてくれる。そのため、金利上昇分を相殺させる効果がある。なぜかそれができない。同様に、農業政策にも構造的な問題がある。鈴木農水相の発言は、旧来の農家を温存する姿勢に過ぎない。国民が求めているのは、かつてのような5kgで2,000円台の米である。しかし、その価格では現在の農家は経営が成り立たない。 必要なのは、許認可制を前提とした参入障壁の整備と、農家の組織化・大規模化である。兼業農家の土地を買い取り、農地面積を広大に集約することで、生産能力を高め食料自給率の向上と価格競争力が可能になる。なぜかそれができない。こうした改革を阻む勢力が存在し、選挙に影響がでるから実行できないだけである。

(民主主義の問題点)

 政治家は選挙によって選ばれる。これは民意の反映とされるが、実際には団体票を持つ既得権益者が政治家や政党に圧力をかけ、政策を歪めてしまう。それは世界各国の民主主義が同様のジレンマに陥っている。 真の民主主義を実現するには、団体票の規制または廃止が必要になる。高市政権も、どんな夢のような改革を声高に訴えても、自民党支持団体の反対によって政策が歪められるのは間違いない。

(移民政策は最高の切り札)

 現在の金融トレンドはインフレであり、緩和策はインフレを加速させるリスクがある。その中で高市政権は、責任ある積極財政という疑似緩和策にすぎない。そもそも、現在の保守派は金融引き締め時における経済政策の青写真を研究していない。また、アベノミクスの金融緩和により日本の富を使いまくった事で、日本の国際的地位は低下の一途である。これ以上の緩和政策は、日本の国際的地位をさらに下げるだけでなく、巨大な国家債務はやがて日本の国民に対し、何かしらのブーメランとして襲ってくるだろう。その一つが西欧諸国と比べての惨めなくらいの物価安である。アベノミクスによって、海外におけるジャパンプレミアムのほとんどが剥奪されてしまったが、しそれを嘆く政治家はほとんどいない。 しかし、高市政権には支持率を高止まりさせる切り札がある。それこそが移民対策である。川口市のクルド人問題など、日本人の移民に対する視線は年々厳しくなっている。善良な移民を選別して受け入れる制度を構築できれば、それだけでも高市政権は歴代政権の中でも、多くの国民から評価される可能性がある。

(結局は元の木阿弥)

 インフレは容赦なく国民の生活水準を押し下げる。政府は賃上げによってそれを乗り越えようとしているが、大企業では賃上げが進んでも、税負担の増加により手取りは増えない。中小企業では賃上げすら困難であり、中小企業の社員はひたすら物価高に耐え忍ばなくてはならない。これでは、石破政権時と何ら変わりはない。その一方で、株式市場は堅調に推移し、高値更新を繰り返す。結果として、富める者はますます富むことで、高所得層が高級品の売上を押し上げ、企業業績を底上げする。 

 こうした状況を踏まえれば、経済政策はどの政党が担っても大差がない。政治家が経済の根幹にメスを入れようとしても、既得権益者の圧力により、構造改革が骨抜きにされるからである。 

 実際、アベノミクスの「三本の矢」(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)のうち、実行できたのは金融政策のみであった。他の二本は抵抗勢力によって骨抜きにされた。 残念ながら、高市内閣は安易な金融緩和ができない。あるのは、アベノミクスがとん挫した残り二本の矢だけである。それだけでも結果は見えたようなものだ。

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