温故知新:石油業界の浮き沈みから現在のAI投資事情を考察
「歴史は繰り返す」と言われる。しかし実際に歴史が繰り返されるのは、人々がその教訓を忘れ、成功への慢心から過去の失敗を軽視し始めた時ではないだろうか。現在、米国のビッグテック企業はAI分野に巨額の設備投資を続けており、その勢いに陰りは見えない。一方で、このような大規模投資は過去の石油産業にも見られた。ここでは、戦後の石油産業の事例を振り返りながら、現在のAI投資ブームについて考察する。
1.石油業界の浮き沈み
① 1950~1960年代 高度成長期
1950年代当時、世界の石油市場は Exxon、Mobil、Chevron、Texaco、Gulf、BP、Shell など、いわゆる「セブンシスターズ」によって支配されていた。彼らは現代のビッグテックに匹敵する莫大な利益、巨大な設備資産、そして世界的な影響力を持つ超巨大企業であった。この当時は、自動車の普及、高速道路網の整備、航空需要の拡大を背景として、「石油需要は今後も増え続ける」という共通認識が形成されていた。これを受けて、石油会社は製油所、パイプライン、タンカー、石油化学設備への大規模投資を実施した。
1950年代後半だけでも、北米では約14,000マイル(約22,500km)の原油パイプラインが建設した。天然ガス供給網も急速に整備し、1950年代末には100万マイルを超えるガス配管網が構築した。実際、自動車社会の到来とともに石油需要は予想以上に拡大したことで、これら投資は大成功を収め、石油会社は世界最大級の企業へと成長した。
② 1970年代 石油危機後の大型投資
1973年および1979年のオイルショックにより原油価格は急騰した。石油会社は、北海油田、アラスカ油田、深海油田、LNG設備、パイプラインなどへの巨額投資を進めた。当時は、「石油需要は永遠に増え続ける」と考えられており、多くの企業が高価格を前提に設備投資を拡大していた。
③ 1980年代 石油不況(過剰投資の表面化)
1980年代に入ると、省エネルギー技術の普及、景気減速、原子力発電の拡大、原油供給量の増加などにより、石油需給を取り巻く環境は大きく変化した。1986年には原油価格が急落し、石油業界は深刻な不況に陥った。これを受け、石油会社は過剰投資の問題に直面し、大規模投資の凍結や探鉱計画の中止、人員削減を世界各地で進めることとなった。こうして石油業界は長期的な低迷期、いわゆる「冬の時代」へと入っていった。
④ 2010年代 シェール革命後の投資拡大
2003年頃から原油価格が上昇基調となり、石油会社は多額の利益を獲得した。これを背景に、2010年前後にはシェール開発、深海油田開発、LNG事業などへの積極的な投資が急増した。しかし、そのすべてが成功したわけではない。例えば、ExxonMobilは2010年にXTO Energyを約300億ドルで買収したが、その後の天然ガス価格低迷により、期待した収益を十分に確保することができなかった。
⑤ 2020年 コロナショック
2010年代後半から脱炭素の流れが強まり、石油業界への逆風が徐々に強まっていた。さらに2020年、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の停滞により石油需要が急減し、原油価格は大幅に下落した。この結果、世界を代表する石油会社は相当なダメージを受け、設備投資を凍結するなどの対応をとった。ExxonMobilなどは170~200億ドル規模の減損処理を実施するとともに、過去最大級の資産評価損を計上し、年間で220億ドルを超える赤字を記録した。
2.AI投資との共通点と今後のシナリオ
石油産業と現在のAI産業には共通する構造として、
石油産業(1950年代):石油需要は拡大すると予想⇒巨額の設備投資を実施⇒将来需要を先取り
AI産業:AI需要は拡大すると予想⇒巨額のデータセンター投資を実施⇒将来需要を先取り
つまり、「将来需要の拡大を信じて巨額のインフラ投資を行う」という構造が類似している。
巨大石油インフラ投資を例えに、AI投資には、大きく二つの結末が考えられる。
① 1950年代石油革命型(成功シナリオ)
需要が投資を上回る⇒社会インフラとして定着⇒投資回収に成功⇒世界最大級の企業へ成長
② 1980年代石油不況・2020年Exxon型(失敗シナリオ)
需要が想定を下回る⇒設備過剰が発生⇒減損処理や利益悪化に直面
又は
中国製AIの普及による価格競争の激化⇒利益率の低下⇒大規模AI投資の回収長期化⇒設備・データセンター投資の減損リスク増大
3.結局のところ
現在のAI投資は、「1950年代の石油革命の再来」になる可能性もあれば、1980年代の過剰投資の再現」になる可能性もある。
今後5~10年で、「計算能力(Compute)が石油と同じ社会インフラになるのか」が問われているが、シナリオによっては、「230兆円の設備資産と360兆円規模の将来契約を回収できるのかがはっきり分かれるるのであろう。
そして歴史が示唆するのは、ビックテックのやがては、石油メジャーの様に合併連捷により2~3社に集約することも予想される。という点である。
参考)ビッグテックは「AI企業」から「巨大インフラ企業」へ変貌
Amazon、Alphabet、Microsoft、Meta の4社が保有する有形固定資産は約1.46兆ドル(約230兆円)に達している。
1.莫大な有形固定資産
企業 有形固定資産
Amazon 約5,387億ドル
Alphabet 約3,300億ドル
Microsoft 約3,300億ドル
Meta 約2,600億ドル
合計 約1兆4,600億ドル(約230兆円)
その大半は、AIデータセンター、サーバー、ネットワーク設備、土地・建物、電力設備
等のAIインフラで、特にGoogleでは有形資産の7割超が技術インフラで占められている。
Amazonの有形資産はサウジアラムコやエクソンモービルを上回る規模となっている。
2.ビジネスモデルの変化
従来のビックテック企業は、「設備投資は比較的小さい、ソフトウェア中心、高収益・高キャッシュフロー」を武器に高株価な経営をしていた。現在のビックテック企業は、「巨額の設備投資、維持管理コスト、大量の減価償却費、長期間で投資回収」という構造になっており、電力会社や通信会社に近いインフラ産業型モデルへ移行している。
財務面でも、4社合計の減価償却費は四半期で445億ドルに達し、2028年には年間3,600億ドルまで増加する見通し。さらに、「設備購入契約、データセンター建設契約、リース契約」など、貸借対照表に未計上の将来契約債務が約2.3兆ドル(約360兆円)存在するとされる。
今後3~5年で、特にAmazonとGoogleは「テック企業」から「世界最大級の電力・通信・計算インフラ企業」へ変貌する可能性が高い。

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