「昔はよかった」の嘘 — 記憶の書き換えと生活水準の現実、そして過去の美化とプロパガンダの構造

 全く別テーマの動画であるが、養老先生が興味深いコメントが数十秒間していたので、それをもとに記事にしてみた。

動画の会話 

https://www.youtube.com/watch?v=hFT8er17yS4

落合陽一「昭和100年で式典で武道館に言った。そのころの日本のニュース(VTR)に 非常に怒りっぽい日本人が満員電車に乗ることはなかなか凄いことだと海外の人たちが言っている。日本人が怒りっぽいというフレーズは平成以降聞かなくっているが。」

との言葉に養老先生は

 「あの頃は非常にイライラしていたんだよね。その一番の理由は貧乏だったから。 ストレスが多かった。食の部分は特に。私なんかは食糧難の時代を経験してますから。確かに戦前はおよそが貧乏で食べるという事が中心に考えられていた。日常生活では、 僕もなんか、自分でも思いますよ。昭和は居間でだいぶ怒っていた。」

落合陽一

 「昭和は怒りがあったけど、それが原動力になっていたという側面もあるんですよね」

→この話を聞くと、「男はつらいよ」の寅さんや「三丁目の夕日」、そして『サザエさん』などが描く世界観さえ、ある種の美化されたフィクションのように思えてくる。

平成に入ってからも、「昭和の高度成長期をはじめとする昔の時代は良かった」と語る人は少なくないが、それは過去の過度な美化に他ならない。現代社会に対してマスコミを含めてさまざまな批判がなされるが、人々が過度なストレスで暴徒化するようなことはなく、理性的でスマートに暮らしている。これは、昭和(戦前)から昭和(戦後)、昭和(バブル)、平成(失われた30年)、そして令和へと時代が移り変わるにつれ、科学技術の発展とともに人々の生活水準が着実に向上してきたことの証明でもある。


確かに、給料が上がらない、欲しいものを自由に買えないといった制限はある。しかし、そうした制約から完全に解放された時期など、日本の歴史上において昭和バブル期(1988年〜1989年頃)のほんの一瞬にしかなかった。

それ以前の時代は、人々は遡るほど生活が質素であり、身分や格差が今以上に厳しかったからこそ、人々は身の丈に合った生活を心掛けていた。

ところが、バブル期に一般庶民までが海外旅行に出かけ、シャネルのバッグを手にするようになってから、日本人全体の価値観が急激に変質した。そして、その異常なバブル期こそが「普通」であるかのように論調がすり替えられ、幻であることを無視したままマスコミが「失われた〇年」と報じ続けた。

その挙句、高度成長期を美化する論調が定着し、現在の政治や社会のせいで庶民が苦しんでいるという歪んだ構図が、あたかも公然の事実であるかのように作り上げられてしまっている。

しかし、経済学的な背景からすれば今の経済状況は至極自然であり、言い方を変えれば、昭和バブル期のような狂乱の時代こそ、日本の歴史において稀に見る例外的な黄金期だったということである。そう踏まえれば、あの当時のようなバブルの再来など、今後100年経っても訪れることはないだろう。

それにもかかわらず、少しでも景気が悪くなると、「今の日本は戦前と同じ匂いがする」といった極論が出回り、多くの人がそれに同調してしまうというパラドックスが発生する。

大学進学についても、現在は「奨学金で多くの人が苦しんでいる」と報道されるが、昭和40年代頃までは大学進学率が10%台に留まり、どれほど頭が良くても経済的な理由で進学を諦めざるを得ない人が多かったのが現実である。今は進学率が50%台に達しているが、もし昭和40年代に当時の半数の人が大学を目指していたとしたら、今以上の深刻な学費問題が発生していたことは間違いない。

旅行や食事においても同様である。昔は誰もが気軽に何度も行けるものではなく、たとえば昭和40年代には、東京から名古屋に行くことだけでも立派な「旅行」であった。食事についても、当時はファミレスに行くこと自体が外国の映画のようにウキウキする特別な体験であり、誰もが簡単に行けるものではなかった。現在はチェーン店などの発達により、当たり前のように美味しい料理を手頃な値段で楽しめるようになっている。

だが、そうした「昔の厳しい現実」は記憶の主流としては語られず、現在の悪いところばかりが強調されて、「昔はよかった」という論調が作られやすい。

こうした現状を見ると、人間の記憶は容易に書き換えられ、マスコミなどの情報発信によるプロパガンダによって、後世の人々が現実とは異なるイメージを真実として信じ込んでしまう危うさを痛感させられる。

しかし、このような情報の刷り込みは社会的な風潮に限った話ではなく、日々の投資の世界で流れてくる情報についても五十歩百歩であることを、私たちは忘れてはならない。

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