報道のパラドックス:アメリカ格差社会の本当の姿
「アメリカは格差社会であり、中流層が大きな圧力にさらされている」という報道を目にする機会は多い。一方で、100万ドル以上の金融資産を保有する人は2,000万人を超え、世界最多である。
では、日本のかつての「一億総中流」のような分厚い中間層は、アメリカには存在しないのだろうか。
(「経済ニュースが伝える「アメリカ像」)
経済ニュースでは、高インフレや住宅価格の高騰、医療費や教育費の負担増により、中流層を含む多くの人々が生活上の圧迫を受けていることがしばしば報じられる。また、「超富裕層はごく一部で、残りは低所得層」という二極化したイメージも強調されがちである。
しかし実際のアメリカは、人口約3億4,000万人を擁し、世界最大級の株式市場を持つ世界有数の資産保有国である。その莫大な富は、一部の超富裕層だけに集中しているわけではない。
100万ドル(約1.5億円)以上の金融資産を保有する人が2,000万人を超えるという事実は、相当規模のアッパーミドルな中間層が存在することを示している。
主要国のミリオネア数と人口比の比較
1. 米国: 約2,400万人 / 人口約3.4億人(約7%)
2. 日本: 約300万人前後 / 人口約1.2億人(約2〜3%)
3. 中国: 約600万人前後 / 人口約14億人(1%未満)
4. フランス: 約300万人前後 / 人口約6,800万人(約4〜5%)
5. ドイツ: 約250万人前後 / 人口約8,400万人(約3%)
6. 英国: 約250万人前後 / 人口約6,900万人(約3.6%)
7. カナダ: 約200万人前後 / 人口約4,100万人(約4.9%)
この比較から分かるように、アメリカはミリオネアの「人数」だけでなく「人口比率」においても突出している。
すなわち、「アメリカは格差社会である」という側面と、「アメリカは世界最多のアッパーミドルな中間層以上の人々を抱える国である」という側面は矛盾しない。どの階層に焦点を当てるかによって、国のイメージが大きく変わるのである。
(「中流層の標準」という前提)
報道を受け取る際に注意すべきなのは、日本人が無意識のうちに高度経済成長期以降の「比較的均質な中流社会」を基準としていることである。
日本では長らく、終身雇用,年功序列、持ち家志向などを背景に、中間層が厚い社会構造が形成されてきた。
一方、アメリカは競争原理がより強く働く社会であり、所得や資産の差が大きくなりやすい。その結果、富裕層と低所得層の存在が目立つものの、それは必ずしも中間層の不在を意味するものではない。
むしろ、統計的には大規模な中流層や準富裕層が存在しており、長期的な資産形成を通じてミリオネアに到達する人々も少なくない。
(欧州諸国との比較から見えること)
この傾向はアメリカ特有のものではない。欧州諸国、カナダなど、日本より高いミリオネア比率を持つ国も存在する。これらの国々でも、報道では格差や生活コスト上昇が取り上げられる一方で、多くの中間層が着実に資産を形成している。
確かに、日本は諸外国と比較して中流層の幅が広く、社会の一体感も比較的強いと言われる。しかし、それを理由に「アメリカは弱肉強食の競争社会であり、安定した中流層は存在しない」と考えるのは適切ではない。
実際には、堅実な人生設計のもとで住宅を取得し、老後資金を積み立て、着実に資産を築いている巨大なマス層が存在する。そして、それはアメリカだけでなく欧州諸国にも共通する現象である。
(メディアが映さない「アメリカのリアル」)
日本で紹介されるアメリカ関連のニュースは、シリコンバレー、ウォール街、ビッグテック企業、グローバル企業など、転職や競争が激しい業界に集中しがちである。しかし実際には、医療、教育、地域金融、建設、行政、中小企業などで働く人々が多数を占めている。こうした職場では20年、30年と勤務する人も珍しくなく、特に中西部や南部の地方都市ではその傾向が強い。レイオフや格差のニュースは目を引きやすいが、その一方で、長期勤続、持ち家の取得、401(k)による積立、投資信託を活用した資産形成を着実に進めてきた人々も数多く存在する。
アメリカは「転職社会」というよりも、むしろ「転職の自由がある社会」と捉えた方が実態に近い。日本人が想像する以上に長期勤続者は多く、地方の中堅企業や医療・公共部門には安定した中流層がしっかりと存在している。
(つまるところ)
もちろん、メディアが伝える格差や生活苦の問題が虚構であるという意味ではない。それらは現実に存在する重要な社会課題であり、社会的な支援や政策的対応が求められる分野である。しかし、そうした報道だけを見て国全体を判断すると、実像を見誤る可能性がある。アメリカや欧州には、日々のニュースではあまり取り上げられないものの、堅実に働き、資産を形成し、地域社会を支えている大規模な中流層が存在する。
海外の経済や社会を理解するうえでは、注目を集める極端な事例だけでなく、こうした「静かな多数派」の存在にも目を向ける必要があるのではないだろうか。
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