検体検査分野で優位性を示すシスメックス
(ニッチ市場での優位性)
シスメックス株式会社は、血液分析装置において世界トップクラスのシェアを誇る医療機器メーカーである。現在、190か国以上で事業を展開しており、海外売上高比率は80%以上に達している。グローバル市場における検体検査分野では、世界シェア第9位の規模を持ち、特に以下の3つのニッチ分野で圧倒的な競争力を発揮している。
①ヘマトロジー(血球計数)分野 ②血液凝固検査分野 ③尿沈渣検査分野
これらの分野では、世界シェア50%以上を獲得している。
さらに、同社製品の代替には高いスイッチングコストが伴うため、既存顧客が他社製品へ乗り換えることは容易ではなく、加えて、医療分野という高い品質と信頼性が求められる領域であることから、現時点では中国企業などの新規参入による脅威は限定的と見られている。
(ビジネスモデルの強み)
1990年代以降、シスメックスは高収益なビジネスモデルを構築し、検体検査装置の販売を中心に事業を拡大してきた。2000年代に入ると、装置を導入した顧客が継続的に試薬や関連製品を使用するようになり、これらの売上高は装置の売上高を上回るまでに成長した。
さらに、同社は事業を展開する各国・地域に自社拠点を設立し、販売からサポートまでを一貫して提供できる体制を整えた。これにより、顧客のニーズに迅速に対応することが可能となり、検体検査装置のトータルソリューションを提供できる企業としての地位を確立した。こうした直販体制の構築や現地企業との提携を通じて、シスメックスは欧米企業が市場を支配する検体検査分野において、世界規模で展開する稀有なアジア企業となった。
こういった成果もあり、自己資本比率は70%~80%、売上高純利益率は10~16%台を続けている。強固なビジネスモデルを散財せず、強固な財務内容を築いている。
(実質オーナー企業)
シスメックスの家次恒会長は、東亞特殊電機の創業一族と配偶者関係にあることから、義母からの説得もあり、1986年、37歳でシスメックスに入社し、取締役に就任した。この経緯は、HOYA株式会社の鈴木哲夫氏のケースと類似しており、家次氏も同様に企業の成長を牽引する立場となった。1996年に社長に就任して以降、家次氏は海外展開を加速させ、血球計数検査分野で世界トップの地位を築くなど、売上高を約10倍以上に伸ばした。
現在、家次会長は70代であり、今後10年程度は陣頭指揮を執ることが期待される。シスメックスのビジネスモデルは非常に安定しており、医療分野という特性も相まって、当面は堅実な実績を維持できると見込まれる。
(参考)家次恒の講演録
から一部抜粋。
-海外企業との提携も推進。同業大手であるロシュのトップを会社に招き「(会社の規模が)小さくても独自の強みを持つことで(立場は)対等」(同)という関係を築き、業務提携を行った。これがシスメックスの、国際地位を高めることにつながっていった。ロシュ(スイス)とシーメンスヘルシニアーズ(ドイツ)という、2つのグローバルメジャーとアライアンスを結んでいます。元々日本の小さな会社だった我々が、グローバルメジャーとのアライアンスを実現できたのは、ヘマトロジーという強みがあったからです。たとえばロシュは医薬品分野が強いのですが、我々には彼らとは違う強みがありました。「これだったら負けへんで」という強みを作り、それを磨いてきたからこそ、彼らに「組みたい」と思わせることができた。逆に、彼らと同じことをしていたら買収されてしまったかもしれませんね。このアライアンスによって、彼らの開発やエビデンス取得のノウハウを吸収し、シスメックスの国際的地位を高めることもできました。
グローバルに事業を展開している我々は、世界の各地域を尊重し、多様性を認めて海外ビジネスに日本を持ち込まないというスタンスを取っています。現地メンバーによるビジネス展開を重視し、米州、EMEA、アジア・パシフィック、中国の4地域とも、現地のトップは非日本人です。シスメックスは日本の会社であり、日本で開発した機器を売っていますが、大事なのは現地のお客様にそれをどう活かしていただくかということです。弊社ではとにかく日本人をトップに据えないことを徹底しています。本社や研究開発にも外国人を積極的に採用し、優秀な人材を輩出していることで知られるインド工科大学からも毎年数名が入社しています。
我々のさらなる挑戦としてご紹介したいのが、外科領域への進出です。同じ神戸に拠点を構える川崎重工業と合弁会社「メディカロイド」を設立し、川崎重工が持つ産業用ロボットの高い技術力と、弊社が持つ検査・診断の技術やノウハウを活用した手術支援ロボットを開発しました。手術支援ロボットは遠隔操作ができるため、外科医不足や過疎地医療という現在の医療課題に対する有効な解決策となり得ます。また、優秀な外科医の“神の手”は多くの患者を救うことができる一方、その技術をほかの医師が学びにくいという問題がありました。しかし、神の手を持つ医師が手術支援ロボットを使えば、ロボットの鮮明な映像でその技術を繰り返し見ることができ、若い外科医が効率良く技術を習得できるようになるかもしれません。手術支援ロボットの世界では、アメリカのダヴィンチがリードしていますが、日本の産業用ロボットの技術は非常に高く、それをうまく応用すれば世界に通用すると考えてチャレンジしているところです。
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