投資における複雑系「エントロピー増大の法則」

〇宇宙の根源的法則:エントロピー増大の法則とは

エントロピー増大の法則は、宇宙を司る最も基本的な定理の一つです。これは「孤立した系(外部からの影響を受けないシステム)では、時間の経過とともに無秩序さが増していく」というもの。簡単に言えば、何もしなければ、物事は自然に乱れていき、秩序は失われるということ。私たちの日常生活、社会の動き、そして生命活動のすべてにおいて、この普遍的な法則が根底にあります。

〇企業経営におけるエントロピー増大:成長の罠と「恐竜化」

このエントロピー増大の法則は、企業経営にも明確に当てはまります。企業は成長期を過ぎて安定期に入ると、組織内に無秩序の種が芽生え始め、やがて衰退の兆しを見せます。


このような過程で、企業はさらなる成長軌道を維持しようと、次々と新たな事業に手を広げ、**コングロマリット化(“恐竜化”)していきます。当初は事業間の補完が機能するものの、ある臨界点を超えると逆回転を始め、崩壊への道を辿ることになります。そして、巨大になりすぎたがゆえに時代の変化に追いつけなくなり、かつての成功体験が足かせとなって、組織全体に「制度疲労」**を引き起こします。これにより、最終的には長期的な低迷、あるいは崩壊へと至るのです。

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〇「時代と寝るな」:常に脱皮し続けることの重要性

その時代に輝く人物や企業は、確かに魅力的に映るものです。しかし、たった10年も経てば、かつての栄光が跡形もなく消え去ることは珍しくありません。この現象が示唆するのは、「時代と寝てはいけない」ということ。つまり、継続的に脚光を浴び続けるためには、常に自らを“脱皮”させ、次なる方向へと変化し続けなければなりません。変化を拒み、現状に安住してしまえば、待っているのは「崖からの転落」だけです。「安定」を求める行為こそ、実は自滅への道と言えるでしょう。すべての物事は、時間とともに変化し続ける運命にあるのです。

この考え方は、現代の企業経営にも強く当てはまります。例えば、今注目されている「マグニフィセント・セブン(Magnificent Seven)」と呼ばれる米国の巨大テクノロジー企業群は、次なる成長分野を積極的に切り開くことで、新たな脱皮を図ろうとしています。彼らは、変化を怠れば時代に淘汰されることを誰よりも理解しており、未来に向けて進化し続けることで、持続的な価値を創造しようとしているのです。

〇企業の新陳代謝:選択と集中の重要性

企業は成長期の峠を越えたら、常に新陳代謝を繰り返さなければなりません。それぞれの事業には、まるで線香花火のような寿命があるからです。今後の発展が見込まれる事業と、そうでない事業を明確に切り分け、成長の可能性が低い事業は思い切って切り捨てる判断が求められます。一方で、将来性のある事業は、M&A(企業買収・合併)などを活用しながら積極的に強化を図っていくべきでしょう。こうした選択と集中を通じて、企業は主力事業を柔軟に変化させ、持続的な成長を目指していくことになります。

〇分布に平均はない。常に局所的である

エントロピーの法則は、全ての物質が均等に拡散していくことを示唆します。これはコーヒーにクリームを混ぜると全体に広がっていく現象に当てはまりますが、人間社会では若干意味合いが異なってきます。実は、人間社会において「分布に平均はない。常に局所的である」という特徴が見られます。

様々な事例を見渡すと、突出した才能は場所を問わず平均的に現れるのではなく、特定の時期に、特定の地域に集中して現れる傾向があります。たとえば、サンフランシスコのシリコンバレーでは、天才たちが互いに連なり、刺激し合うことで能力を高め合い、結果としてGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)のような超優良企業が出現しました。この現象が示唆するのは、「物事の分布は集まるところに集まり、閑散な場所はそのまま閑散である」ということです。

つまり、革新的な企業は単独で成長するのではなく、周囲のライバル企業やスタートアップとの切磋琢磨、そして豊かな人的・知的資源に囲まれた環境によって、さらに進化していくのです。革新は孤立した場所ではなく、活発な交流と競争が存在する**「集積地」**から生まれます。優秀な企業は単独で現れることはなく、近くにお互いを高め合うライバルの存在がある。こうした周辺環境の重要性を見落としてはなりません。

米国は、世界中から優秀な人材を集め、競わせながら世界最高水準の研究や技術を維持しています。たとえ保守的な政策がとられようと、世界でアメリカのようなイノベーション環境を構築できる国は他にありません。そういった点では、投資においても「分布に平均はない。常に局所的である」という視点が非常に重要になります。

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