2050年夏の情景

 地球温暖化については、今後、世界中で深刻な問題になるのは間違いない。ここでは環境の視点ではなく、投資家視点で2050年の夏を想像してみた。

(一般家庭)

2050年の東京。気温は連日45度を超え、空は青いというより、白く焼けた鉄板のように光を反射していた。そして、朝というのに35度を超えている。

「おじいちゃんん、外に出ちゃだめだよ。今日は“レベル5熱波警報”が出てるんだから」

自宅で一緒に住んでいるネコ型ロボットは、祖父の手を引いて室内に戻した。祖父は健康管理のために朝のランニングを欠かせなかったが、今の夏は命に関わる。政府は数年前から「夏季外出制限令」を導入し、特定の時間帯には高齢者や子どもの外出に注意を促していた。

家の中は、最新の温度制御システムが稼働し、部屋の温度を28度に保っている。だが、電力需要は限界に近く、テレビでは政府の節電のコマーシャルが流れていた。

国会中継では、電力供給量増加に向けた原子力発電所設置に関する討議と、夜間勤務の努力義務について与野党で論戦を繰り広げていた。しかし、野党は子どもたちが昼間に活動するため家族との時間が失われることを危惧し、原子力発電所は地震の多い日本での安易な原子力発電所の建設は第二の福島の可能性を危惧して反対をしていた。

おじいちゃんは、テレビを見ながらネコ型ロボットとたわいない会話をしていた。

(ビジネス街)

午前9時、新橋の気温は41℃。政府主導で普及した潜熱蓄熱材を埋め込んだビル壁やアスファルトが、街全体を巨大な蓄熱・放熱装置に変え、かろうじて灼熱地獄への転落を食い止めていた。上空では巨大なドローンがミストを散布し、気化熱で必死に街を冷やしている。

通勤するビジネスマンは、クールスーツを着て会社に出勤することが常態化した。スーツは外気を検知し、製造で謳っている外温になると自動で冷却ジェルを循環させる仕組みである。もっとも、多くの人が外出する際、冷却衣類を身にまとって、顔には熱遮断マスクを装着し、外に出ることが常態化するようになった。

              gemini描画

(オフィス)

オフィスに入り、冷却スーツを脱いでワイシャツ姿になる。役員向けの報告書はAIが草案を作り、人間は添削するだけ。営業はメタバース空間のアバターを通じて行われ、コールセンターや商品説明といった顧客対応も、AIやヒューマノイドロボットが担うのが当たり前になった。

皮肉なことに、効率化を追求したAIとロボットが電力消費を際限なく押し上げ、温暖化対策の足枷となっていた。政府は各ビルに太陽光パネルの設置とフル稼働を義務付ける一方、電力会社からの供給量を制限。その結果、オフィスの室温を30℃以下に保つことは実質不可能になっていた。

オフィスでは、社員は冷却スーツを脱ぎ、いつものワイシャツ姿で仕事をする。このころになると、役員向けなどの社内資料が草案を作り、社員が添削。営業はメタバース空間のアバターを通じて行われ、商談もメタバース空間で行われる形態が一般化した。顧客向けの業種では、コールセンター業務すらAIが対応し、商品説明などの窓口業務もAI機能を組み込まれたヒューマノイドロボットが登場する機会が増えた。細々な作業も会社によっては課で数台のヒューマノイドロボットを配置し、事務作業や雑用を指示していた。このように社会全体でAIやロボット化が進んだことで、温暖化対策と言いながら電力消費量に歯止めが掛からなかった。政府は電力消費を調整するために、ビルには太陽光パネルを設置しフル稼働させることを義務付けた。もっとも、電力会社からの電力供給を制限されているので、勤務中のオフィスの室温を30度以下にすることは実質不可能であった。

 昼になるとオフィスの空調が一斉に止まった。外の気温は43度に達していたので急激な室温上昇に見舞われた。社員は冷却スーツをまとって、熱さをしのいでいた。


(地方の様子)

地方の工場では、このころになるとヒューマノイドロボットによる作業の代替が進んでいた。しかし、人手を要する製品を作る工場では、昼間ではなく夕方から夜間シフトに切り替えるところも出てきた。職人などの零細企業は終始冷房の効いた作業場を提供できないため、夏季に限ってのみ、比較的涼しい朝4時から12時まで、又は夕方3時から11時までという勤務形態も増えてきた。それに合わせて、商店街は、夏季に限ってのみ、比較的涼しい午前中か、夕方にシフトするようになり、東南アジアのように夜間12時ごろまで街が賑わうようになった。

農家もドローンを使って作物の管理をした。このころになると農業法人化に対する規制も緩くなり、先進的な農家はロボットに様々な作業をさせるようになるなど、外での作業をできるだけ減らしていた。

(欧米の動き)

 世界では、これ以上の温暖化は人類滅亡につながると判断され、CO₂の排出にする製品や排出する産業などに対して、厳しい制限と世界共通の税金を課すことを決めた。二酸化炭素を輩出する装置を使って作った製品には排出したCO₂に比例して重い炭素税を課した。その仕組みを世界レベルで、徹底し共通化した。

そういった状況下で、地球温暖化にいち早く取り組んでいた西欧諸国では、技術と伝統的な都市設計により、冷却エネルギーの消費を抑える仕組みを構築し、古い石造りの建物は断熱性が高く、緑地と水路を活用した建物の配置、風の通り道、地下水冷却、太陽光遮断樹木などが効率よく配置し、冷房にできるだけ頼らない街設計に取り組んでいた。さらに、街のいたる処に涼む居場所を用意し、熱中症対策にも気を使っていた。

 米国では、現代文明において電力消費を減らす事は不可能という前提で、科学技術の進化による温暖化対策に取り組んでいた。その一つにカーボンキャプチャによる「DAC(Direct Air Capture)」と呼ばれる装置で、空気中のCO₂を吸着する技術が普及した。工場などで排出されるCO₂はこの装置で吸収し、液化して地下の岩層に注入するビジネスである。これら製品は炭素税削減に大きく寄与することから、これら装置を販売するメーカーの業績はうなぎ上りになり、NASDAQ市場で数十兆円の時価総額にまで膨れ上がる企業も登場した。そしてIT産業時の制覇のように米国での成功と世界最高水準の技術力を背景に、製造業が多い途上国に対して売り込みを図るだけでなく、EV化が進まない国に対しては、中古ガソリン車に簡易DAC装置を取り付けるなどの商売で大儲けする企業もあった。周辺のスタートアップ企業も、液化CO₂を資源化し燃料、建材、食品、繊維などを生み出す循環型利用を提唱する事業を立上げ、試行錯誤を繰り返している。米国や発展途上国では化石燃料に対する使用制限をしておらず、液化CO₂はほぼ無尽蔵に回収できることから売買取引所が開設され、多くの投資家の間で取引が活況した。このようにNASDAQ市場ではこれら炭素資源化銘柄に資金が集中しバブル化するなど、米国流の富の形成を踏まえた温暖化対策に邁進していた。

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