トランプ政策の限界?

 ニューヨーク市長選挙と、米南部バージニア州および東部ニュージャージー州の知事選挙で民主党が勝利した。これらの選挙の主要な争点は経済対策であり、この結果は、トランプ政権の政策が国民に十分な恩恵をもたらさず、評価されていないことを示唆している。

 関税政策や米国製造業の国内回帰、移民問題への対応などは、長期的な視点では一定の合理性がある。しかし、短期的な低所得者向け政策が不十分さが目立つ。多くの国民は、10年後の未来よりも現時点での生活向上を望んでいる。

 選挙対策という観点では、トランプ政権は政策の一部修正を迫られるだろう。特に、政府閉鎖の要因となっている民主党の医療費延長要求やフードスタンプ廃止などは、疑問が残る。なぜなら、これらの影響を直接受けるのは低所得者層であり、その結果、トランプ離れが一層加速する可能性があるからだ。

(財政再建と低所得者対策のジレンマ)

 日本では、インフレによって低所得者層の生活が打撃を受ける中、ステルス増税を繰り返したことで自民党が過半数を失った。そこには、財政健全化を進めたい財務省の思惑がある。一方、米国では財政健全化のために政府系職員の削減や各種給付金の廃止を進めようとしている。

 こうした政策を実施すれば、多くの国民から反発を招くのは必至だ。しかし、先進国はどこも膨大な政府債務を抱えている。とくに日本と米国は危機的な状況にあり、米国では国債の利払い費だけでも1兆ドルを超えるという途方もない税金が使われている。国家の適正な財政運営という観点から見れば、財政健全化は重要な政策である。

 しかし、国民は財政健全化のために自分たちの生活を犠牲にすることを容認しない。

(民主主義のジレンマ)

 米国も日本も民主主義社会であり、国民の投票によって政治家が選ばれる。民主主義の利点は、王政のように政治にチェック機能が働かず腐敗が蔓延することを防ぐ点にある。民主主義では、権力者が民衆に対し過酷な政治を行えば、国民は選挙でその政治家を落選させることができる。しかし、国民は必ずしも賢明ではない。どんなに正論であっても、国民に我慢を強いる政策を推進すれば、選挙で敗北し議席を失う。国民は目先の利益を政治家に要求し、その政策が将来的に国を没落させる可能性があっても支持してしまう。それが民主主義の「罠」と言える。

 近年、米国や西欧ではさらに深刻な問題が進行している。移民層が次第に多数派(マジョリティ)を形成し、国政への影響力を強めているのだ。結果として、その国の政治は従来の国民のアイデンティティではなく、他国出身者の価値観が色濃く反映されることになる。例えば、イスラム系の政治家が登場すれば、イスラム的価値観を反映した法律が制定される可能性もある。しかし、先進国は深刻な人手不足にあえいでおり、政治家は移民を黙認せざるを得ない。まさに民主主義国家が抱える新たなジレンマである。

 世界はSNSを通じて製品やファッションなどの生活スタイルが共通化しつつあるが、宗教や生活習慣の違いに対しては、まだ十分に理解し合えていない。これらが完全に融合するには、数世代、100年近い歳月が必要だろう。したがって、急進的なリベラル政策は現時点では時期尚早とも言える。安易な移民受け入れは、かえって文化間の許容性を失わせ、結果として相互理解や融合をさらに遅らせる可能性すらある。

(政治家の難しいかじ取り)

 今回の選挙結果から言えることは、米国の格差社会に対する国民の怒りである。政治の多数派(マジョリティ)は中下位層であり、これらの層の支持を得た者が選挙に勝利する。つまり、低所得者向けの政策を充実させることが選挙戦略上不可欠だ。

 投票者の視点から見れば、トランプ政策によって低所得者層が十分に恩恵を受けられなければ、次の大統領選に大きなダメージを与えるであろう。しかし、低所得者だけを優遇し、富裕層に過度な負担を強いることもできない。なぜなら、中国との覇権争いを踏まえると、GAFAMやテスラに代表されるようなハイテク企業に世界最高水準の技術を維持・発展させてもらう必要があるからだ。その過程で新たな富裕層が誕生し、格差がさらに拡大することは避けられないが、政府は黙認せざるを得ない。

 富裕層を放置すれば国の技術力や対外的な国力は保持できるが。低所得者は選挙によって政治家を退場させる。低所得者を過度に優遇し、共産主義的な政策をとれば国力は減退し、対外的な競争力が失われる。政治家は常に、このバランスを考慮しながら政策を立案する必要がある。しかし、このバランスを保つのは至難の業である。

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