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ラリー・カルプによるGE解体の今後 

  初版 2021.08.20 (旧タイトル GE再建とコングロマリット経営の光と影) 1.世界有数の優良企業  GEは、20世紀を代表する指折の巨大企業(コングロマリット)である。ダウ平均銘柄の当初からのメンバーで、1907年から2018年まで111年にわたってその座を維持していた。  また、素晴らしい組織力と経営力は他の企業のお手本とされ、さまざまな教材に利用されている。そういう優良企業であるGEが、2018年に今までの評価を全て覆すような未曽有の危機に陥ってしまい、現時点でも再建中である。 ここでは投資家の視点で、コングロマリットの超優良企業の代名詞であるGEに何が起こったのか、そして投資家は何について気を付けなくてはいけないのかについて考察をしなければいけない。 2.ジャック・ウェルチによるGEの隆盛  80年代前半にジャック・ウェルチは、GEのCEOに就任した。最初の5年間に10万人ほどの人材をレイオフして、事業の売却や清算を推し進めた。 その一方、「世界で1位か2位になれない事業からは撤退する」スタンスで企業の合併・買収(M&A)を繰返し、小型家電事業や半導体事業などの製造事業を売却する一方で、証券会社やリース会社、消費者金融会社、「NBC」などの放送会社を買収し、非製造業ビジネスの売上高を4割以上に高め、2000年には金融事業の中核である「GEキャピタル」の利益が会社全体の利益の52%を占めるまでに至った。 こうして、総合家電メーカーから世界有数のコングロマリットに転換させることになる。 売上高は、1981年からの20年間に272億ドル⇒1732億ドル、純利益は16億ドル⇒107億ドル、株価は4ドル⇒133ドル(株式分割(4回)を考慮)、株式時価総額は140億ドル⇒6010億ドルまで膨れ上げることに成功する。このようにして、経営の神様の名を欲しいままにする。 3.ジャック・ウェルチCEO交代と衰退の始まり  ジャック・ウェルチの経営は神がかっていた。しかし、一流の製造業が一流の金融業も兼ねることのハードルの高さを次の経営者が直面し、GEの経営は水面下に逆回転する。 2001年、ジェフ・イメルトがGEの次CEOに就任する。世間は、ジャック・ウェルチの指名した後継者なら同等の成果を出してくれるだろうと期待をした。しかし、ジェフ・イメルトは、GE本来...

連続増配記録の正念場 スリーエム 

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初版220403 旧タイトル:増配率の長期低迷懸念 スリーエム スリーエムは、60年以上続く連続増配銘柄であり、古参のダウ採用銘柄である。かつてはGEと並び称される優良コングロマリット銘柄としてもてはやされたが、GEが退場した現在、同社に対するコングリマリット経営の評価は年々厳しいものになっている。 2.会社の構成  ①産業部門(Industry) 30%強       工業用テープ、接着剤、研磨剤等    ②セキュリティ部門(Safety&Graphics) 20%程度       防塵マスク、滑り止めテープ   ③ヘルスケア部門(Health Care) 20%程度       病院向け機器 サージカルテープ他    ④電子・エネルギー部門(Electonics&Energy) 15%程度        絶縁テープ モニター用フィルム等  ⑤一般消費者部門(Cimsumer) 15%程度       ポストイット、粘着テープなど    まさに、コングロマリットであり多岐の製品を扱っているが、接着系技術をベースとした製品も多く、そういう面では特定の技術に対して、応用的な利用を提唱し、様々な業種に多面的な展開を図っていこうとする経営戦略を垣間見ることができる。 3.企業業績 上記の通り、長期に渡って理想的な経営を行っていることが分かる。老舗企業でありながら持続的な成長を続けており、これに連続配当年数を加味すると優良企業の鏡であるのは間違いない。そして米国を代表する企業であることも間違いない。 3,増配率の低下懸念 しかし、配当という側面から当社を見ていくと、当社の苦境も見え隠れする。長期軸での配当性向は以下の通り。 配当性向が上昇気味に推移していることが分かる。さらに直近5年間をトレースすると2017(59%)⇒2018(61%)⇒2019(74%)⇒ 2020(63%)⇒2021(58%)   一株当たりの配当は、2018(1.36)⇒2019(1.44)⇒2020(1.47)⇒ 2021(1.48)⇒2022(1.49)に推移している。  ここ3年は、わずか1セントしか増配していない。このことはスリーエムの増配余地が上限に達していることを意味している。どうも、経営陣から見て売上及び利益の更なる成長が...

ネットワーク専業企業からの脱皮に苦戦  シスコシステムズ

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  初版 20220326 1.はじめに シスコシステムズは、ダウ30にリストアップされている世界有数のネットワーク機器企業です。この会社の戦略は、ジョンチェンバース元CEOの「市場をセグメント化して、そのセグメントでNO.1かNO.2になることを目指す」に代表されます。           2.中途半端なM&A戦略 シスコシステムズは、ネットワーク機器を主軸にしながら、長年に渡って積極的なM&Aを実施してきました。その数は優に200社を超えています。こういう戦略は、年代的にはGAFAの先輩格とも言えます。ちなみにこの会社は、1999年に世界一の株式時価総額を記録しています。ほんの短い期間ですが、一昔前のGAFA的な役割を担っていました。 これだけM&Aをしながら、今もってして、この会社はネットワーク機器という領域から大きく脱皮していません。同時期の雄であるマイクロソフトはWindowsの呪縛から離れ、更なる成長軌道に移行させた事を考えると非常に残念です。当然ですが、その結果は株価の差となって表れています。 3.成長性の乏しい業績推移 下記のとおり、GAFAMと好対照に売上は、長年に渡ってほぼ横ばいです。M&Aの実施状況から類推するにネットワーク機器と関連ソフト以外の事業を大きく飛躍させる実力がないことを物語っています。これではIT分野のオールドエコノミーも同然です。 4.「ズーム」躍進に見るシスコシステムズの限界 その代表が「ズーム」です。この会社のCEOは、シスコシステムズ出身です。もし、このCEOの力量をシスコシステムズ内で如何なく発揮することが出来たなら、ズームの原型であるWebexMeetingは、シスコシステムの主力製品になっていただけでなく、投資家は新事業領域の開拓に成功させたシスコシステムズの経営に対する力量を評価することになり、そのプレミアとして株価は現状の2倍近くで推移することでしょう。 まことにもったいない話です。 私自身が勘繰るには、これは一例に過ぎず、幾度となく、シスコシステムズはこういった大魚を逃がし続けていると推測されます。マイクロソフトなどのように主力製品を広範囲の事業分野でラインナップできる会社ではなさそうです。当然ですが、これは企業に深く根付いた文化でもあり、これからも同じことを繰り返することは間違...

名著「となりのミリオネア」から投資の本質を学ぶ(その他) 

初版 20220320   二版 20221212  三版 20230101    1.みすぼらしいおじさんの遺産がなんと 10 億円  これは有名な話ですが、非常に示唆に富む話なので今回取り上げます。    米国のブルーカラーのおじさんの遺産がなんと 10 億円だったという実話があります。彼はブルーチップ株をひたすら買って配当を再投資する投資法で巨万の富を築きました。彼の投資した銘柄は、少なくとも 100 社近くにのぼり、ヘルスケア、通信、公共、鉄道、消費財等に分散投資し、そのほとんどが CVS ヘルス、ジョンソン&ジョンソン、P&G、JPモルガン、ゼネラルエレクトリック、ダウケミカルなど米国を代表する優良銘柄群でした。     2.筋金入りのケチ  報道によると駐車場代がもったいないので、駐車場代のかからない遠くの敷地に車を止めたとか。車も中古のトヨタ車。さらには、あまりにも貧相なので友達が食事を奢ってくれたとか、株も証券会社に預けずに自分で保有して手数料すらケチったとか、とにかく筋金入りのケチのようです。こういったケチさ加減は程度問題ですが、本人が満足するのなら幸せなことです。バフェット先生の生活も質素です。  日本でも、億とはいかないまでも、生前は非常に質素で、「お金がない」が口癖だった親父の遺品整理をしていたら、たくさんの株券や 5 千万円を超える定期預金があったという話はよく聞きます。身なりや生活レベルと資産額は必ずしも一致しません。  逆に、羽振りの良い人が雀の涙ほどの遺産しかなかった話もしかりです。世の中、そんなもんです。(こういう話って、芸能人に多いようです) 3 .この話の盲点(時代背景を冷静に見つめよう。)   1959 年のダウ 30 指数は、 600 ドル前後で、ロナルドさんが亡くなる 2012 年頃は 13000 ドル弱です。ダウ指数はざっと約 20 倍に膨れ上がっています。これが 2021 年ならダウ指数は 3 万ドルを超えているのでざっと 50 倍以上に膨れ上がっています。つまり、 1959 年にダウインデックスに 10 万ドルを投資したら何もしなくても、配当による再投資分を考慮したら、恐らくですが、前者が 400 ~ ...

2022年の投資を振り返って ~休むも相場~ (運用状況)

〇2022年を振り返って 2022年は、米国の金利引上げと強烈な円安に振り回わされ、日本も10年物国債+0.5%への引き上げをするなど、世界中が金融引締め政策に転換した1年でした。 こういった中での私の1年は、「休むも相場」とばかりに連続増配優良株の配当金をひたすら受け取った年でした。 〇2023年の抱負  まず、米国の金融引締め政策(FFレート5%)の言わんとすることは、株式市場の調整です。今年も、右肩上がりは期待できません。  日本も、2023年は金融緩和を徐々に解除していくものと想定され、これも相場にとっては調整材料です。  こういったことを踏まえ、今年も原則「休む相場」ですが、米国連続増配銘柄で設備投資や研究開発費がボトルネックにならない優良銘柄に対して、米国ドルで購入していくことも視野にいれています。  あとは、円ドルの為替レート次第ですが、米国国債や外貨MMF購入も視野にいれています。 〇2023年の投資指針 私の投資指針は、バッフェト先生の言葉を借りて ルール1 絶対に損をしないこと。 ルール2 ルール1を絶対に忘れないこと。 です。 これを例えれば、2022年の年初に時価総額3000万円だったのが、年末には2600万円になり、400万も損をするのが予め予想できるのなら市場から撤退し、次の投資機会をじっくりと見極めていく。というものです。 もう少し、バッフェト先生の言葉を借りれば 「「短期間に急いで金持ちになろうと思わないこと。」 「人々が強欲になっているときに消極的になり、人々が恐怖になっているときに積極的になる。」 というものです。 当ウェブサイトの情報は、個人的な私見を述べたものにすぎません。このため、当ウェブサイトに掲載された情報によりなされた判断及び一切の行為は、閲覧者の自己責任においてなされるものとします。いかなるトラブル・損失・損害に対しても、一切責任は負いません。

高配当銘柄(アルトリア)で夢の配当金ライフ

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初版2021.06.26  加筆2022.12.23  1.アルトリアの会社概要  アルトリアは日本におけるJT(日本たばこ)のような会社です。「マルボロ」や「バージニアスリム」などブランドは世界的に有名で、本来なら超がつくほどの名門企業です。 しかし、訴訟大国の米国でのタバコ企業の扱いは、常に健康被害等のやり玉に挙げられます。投資家からはその訴訟リスクの高さが嫌気され、株価は実力よりも低めに放置されています。最近も、電子タバコの健康被害問題で多額の損害を計上しました。  不思議ですね。日本ではタバコに関する健康被害の訴訟沙汰などあまり聞きません。日本と同じ製品を販売しているのにも関わらず、米国の人権団体は許してくれません。お国柄の違いのようです。 そのため、株価はそのリスクを織り込んで、実力よりも低位に推移しています。 それでも、フィリップモリス(アルトリアの前身)は、1990年前半まで米国における株式時価総額の上位にランクインされており、訴訟リスクがありながらも今よりもはるかに株式市場で存在感のある大型株だったようです。  投資家は、このような特殊事情を利用し、リスクに果敢に挑む気概でアルトリア株を購入し、多額の配当金を手にしてきました。       2.配当金の推移  それでも、アルトリアは訴訟があろうが、損害賠償があろうが、毎年しっかりと増配をしてくれます。こういったことを、何と50年、半世紀も続けています。ちなみに、最近の配当金の推移は 2017年:0.7セント 2018年:0.8セント 2019年:0.84セント 2020年:0.86セント 2020年:0.90セント 2020年:0.94セント という具合に、毎年増えています。全く、頭の下がる思いです。 3.暴落など損を被るリスク  こんな銘柄ですが、そんなおいしい株であるにもかかわらず、バフェット先生ですら投資をしていません。おそらく、人権団体への配慮と思われますが。 なので、最もこの株の恩恵を受けているのが、訴訟問題など暗い情報が飛び交うなか、果敢に投資している株主達です。  一応、暴落の危険性に触れておきますと、そもそもこの銘柄は7%の利回りです。計算上15年もすれば元本は回収できます。実際は、毎年増配してくれるのでもっと早いです。 このため、どんなに激しい暴落をしても、長く持て...

エクソン・モービルは21世紀のフィリップモリス 

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   時代は脱炭素に舵を切っている。それは20世紀のメガ名門企業であるオイルメジャーのエクソン・モービル、シェブロン等に多大なダメージを与えることになる。誰もがエクソン・モービルを将来性のないオワコンの企業と見なしている。しかし、ここで逆説的な提案をしてみよう。エクソン・モービルは21世紀のフィリップモリスになり、脱炭素のムーブメントを逆手にとってしぶとく好業績を叩きだしていくというシナリオである。 1.コロナ禍がエクソン・モービルを低迷サイクルから脱出させた  エクソン・モービルは、約100年近くに渡って、米国企業トップの座に君臨するキングオブキングにふさわしい企業だった。21世紀初頭には原油高による未曽有の高収益で米国企業の時価総額ランキング上位に昇りつめた。しかし、2016年以降の原油安により売上は半減し純利益で配当をまかなえないほどに業績は低迷した。そして、2020年のコロナ禍では、度重なるロックダウンでエネルギー需要が急激に減少したことと、バイデン大統領の脱炭素政策でクリーンエネルギーへのシフトが加速したことで、エクソン・モービルは数兆円の赤字を出すなど存続が危ぶまれるほどの危機に陥った。 誰もがオイルメジャーは終わったと感じた。しかし、エクソン・モービルはコロナ禍によって会社の危機感が最高潮に達し抜本的なリストラを行ったことで、あらゆる事業の贅肉が取り除かれ、悪しき組織の官僚化とコスト硬直性を打破することに成功した。 2.脱炭素がエクソン・モービルを高収益体質にさせる   皮肉なことに世界中で脱炭素を掲げてもエネルギー需要は減ることはない。逆に増加傾向である。このような状況下で原油増産を制限させることは、原油価格の高値を常態化させることにも繋がり、脱炭素化のムーブメントがエクソン・モービルに莫大な利益が流し込んでもいるようだ。  各国政府が脱炭素と声高々に叫んでも、太陽光発電や風力などの再生化エネルギーは化石燃料の代替ができるほど技術の成熟には程遠く、EV自動車も末端までの普及には高いハードルがある。脱炭素を達成するには、エネルギー消費量を減らすのではなく、工場や自動車、電力会社等で排出する二酸化炭素を回収し、二酸化炭素を外気中に排出しない仕組みを構築するほうが効率的だ。エクソン・モービルは世界有数の化学メーカーであり、二酸化炭素回収技術に積極的...

長期投資家視点でAmazonは投資対象になれるのか?

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Amazonと言えばGAFAM の一角であり、ジョフ・ペゾスにより、将来性のある事業を多角的に展開している巨大コングロマリットである。 しかし、私はGAFAMの中で、Amazonに関してはこれから厳しい局面が控えていると予想している。 1.Amazonの強み  Amazonの強みは、既存店舗型の産業構造をデジタル店舗型に移行するビジネスモデルである。実際、この20年間、Amazonのビジネスモデルは人々に未来への夢を与えながら企業規模を拡大し、多くの店舗型の既存企業を駆逐してきた。最近は、オンライン診療の参入を試み、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス、CVSなどのドラッグストア業界を低迷させたのも記憶に新しい。 2.万年低収益体質 Amazonのビジネスは、そういった壮大な夢とは相反するように、企業業績は長年に渡って赤字計上をしてきた。Amazonは未来に向けた設備投資や税金対策などの諸々の理由で、意図的に低収益体質を堅持したが、将来性のあるビジネスモデルと売上の成長性は投資家に好意的に受け取られ、株価は常に右肩上がりを形成してきた。それは、投資家にとってテンバガーどころでは享受を与えた。しかし、Amazon企業規模がどんなに肥大化しても、低収益から脱却する兆しはなかった。というより、株主が長期にわたって低収益体質を容認していたことで、企業風土として染みついてしまったというのが正しいのかもしれない。 3.Amazonの斜陽を断言できる理由  Amazonの収益性の低さはまるで、高度成長期の日本企業と何ら変わらない。高度成長期の日本企業も技術力や将来性での期待から「JAPAN AS NO1」と持てはやされ、株価はうなぎ昇りの上昇をしていたが、その一方で財務的には未来に向けた設備投資を優先していたことから収益性が低かった。「JAPAN AS NO1」の時は財務内容を意識されなかったが、バブル崩壊後の需要が低迷する日本経済において日本株式会社は見事なまでに凋落をしていくことになる。の後は収益性を高める経営にシフトしていくが、今度は日本株式会社の本来の強みを失う結果となってしまった。 4.Amazonの転換点と今後  Amazonの転換点は、なんといってもジョフ・ペゾスの引退と株主が安定的な高収益性を求めるようになってきたである。私自身は、ジョフ・ペゾスの引退は企業の成熟...

HOYA株式会社 その2 カリスマCEO引退による今後 

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HOYA株式会社の前CEO鈴木洋が22年6月の株式総会を持ってHOYA経営から一線を退きました。この経営者の凄いこところは、中堅企業に過ぎないHOYAに対し日本を代表する勝ち組企業にまで押し上げたことです。売上高が5千億円に満たない中堅企業にしか過ぎない企業の株式の時価総額を6兆円強まで引き上げた手腕には驚くべきものがあります。 実際、鈴木前CEOが就任した2001年当時の売上は3000億円程度です。それから20年の間、HOYAの売上高は5000億円程度にしか増えていません。しかし、非情ともいえるコスト削減と不採算部門の撤退により、HOYAは常に高収益決算を維持してきました。こういった高収益の事業体であるからこそ、ちょっとした売上増が多大なる利益増加を生むことになり、それが長期にわたってHOYAの株価を押し上げることにもなります。 2.後継者の課題 カリスマ経営者の後に更なるカリスマが登場する事は難しい。これは何をいっているのか。経営は教科書通りに進めてもその通りにいかないということである。優秀な経営者は、目に見えないところで些細な問題点を日々潰して経営を安定させていくのである。これは見える人に見える。見えない人には見えない非常に微妙な能力である。もう一つは、オーナー家やカリスマ経営者は絶対的な権力で経営をできるが、サラリーマン経営者は絶対的になれない。そうするとある程度の能力が発言力のある高級幹部の意見が通ることで人閥が生まれてくる。人閥による調整の積み重ねが会社経営を行き詰らせていく。そんな中では、前鈴木CEOが幾度も行っていた非情なまでの事業のリストラを今後も続けられるかに疑問が残る。 3.長期的には利益率低下の恐れと創業家復活 恐らくだが、2~3年は安定的な決算を残すかもしれないが、5年後にはHOYAの利益率の低下が懸念される。それは積み重なった負のファクターが表面化する時期と重なるからだ。ただ、HOYAという事業体を山中と鈴木家が手放すはずはない。おそらくだが、次の経営者は創業家に戻るであろう。しかし、鈴木前CEOと同世代の山中家とは関係が悪い。当然だが、前CEOは山中家に経営権を渡すと思えない。 創業家に戻すとしても、嫡男などの自分に近い人物を引き上げるはずだ。それをゆっくりと見定めている可能性もある。しかし、嫡男などの経営手腕も未知数であるが、かつての...

投資家視点の戦後経済(15)  中国の躍進と郵政選挙(2004-2006) 

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  1.中国の大躍進 改革開放以降、中国政府は沿海地域に特区を設け、繊維業を中心に海外企業を誘致したことで、中国で製造された製品が徐々に国際市場に流通することになった。1990年代からは、安価で豊富な労働力を求めて欧米・日本企業が中国に生産拠点を置くようになったことで、中国内企業は先進国の様々な製造ノウハウを蓄積していく事になる。 2001年には、米国の後押しでWTOに加盟し、自由経済圏の商業取引の仲間入りを果たす。その結果、「Made in China」は世界市場を席巻し、世界の製造工場としての地位を獲得した。ハイテク製品でも、欧米、日本、韓国、台湾などから取り寄せた部品を中国で組み立て欧米に輸出する流れが構築された。 2,世界における中国経済の存在感の高まり 中国経済の躍進は、膨大な設備投資と産業用機材の需要を創出し、世界中の特に重厚長大系企業に大きな恩恵を与えた。日本の重工長大産業も莫大な恩恵を享受し、史上最高の経常利益を計上する企業が続出した。 上海指数も、これまでは急速な経済発展を外目でみているような静かさだったが、共産党が株価市場の強化策を打ち出したことで、上海指数は2005年7月の1017元から、2007年10月にはその6倍になる6124元まで上昇した。世界経済での中国の存在感は年を追って高まり、2007年2月の大暴落(上海ショック)では、その影響が世界中に波及し。一時的な世界同時株安を引き起こした。 中国のGDPは常に10%の高成長を続けていたことから、GDPの世界ランキングもイギリス、ドイツを抜いて、日本も目前に迫るほどになった。さらに、様々な研究機関からは、2030年までにはアメリカを抜き世界第1位の経済大国になる予測も報告されるようになった。ゴールドマンサックスは、中国同様に台頭著しい5大国をBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と名付けた。これら国々には世界中の投資資金が集まった。 3.郵政民営化と日本株の暴騰 03年以降、欧米市場の株価は上昇トレンドに描いていたが、日本平均は、企業業績が増収増益にも関わらず、1万円前後の穏やかな小動きに終始していた。 しかし、05年夏に小泉首相が郵政民営化を問う衆議院選挙がスタートすると、日経平均は第2の上昇軌道に転じ、年末に向けて1万5千円を記録する。特に重厚長大系と金融関連銘柄...

仮想空間という不動産市場の黒船 

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  1.仮想空間の時代 ①我々の生活はネットに吸い込まれている  IT技術が私たちの生活に欠かせなくなりました。今や様々なものがネットを経由する時代。証券や銀行取引だけでなく、飛行機、電車、宿などあらゆる手配がネットで済ますことができるよういなった時代。これまで物理的な店舗でしか取引できなかったものが仮想空間に取り込まれて、渦を巻くようにその対象範囲は年々拡大しています。さらに、最近はオンライン飲み会など人々の交流すらオンラインに移行しています。 これからはメタバースの普及も見込まれ、我々はネット上の仮想的な人物を作って生活をおくるようになります。 ②商業用施設の減少 今までは、どこの街にもたくさんの商業用ビルやテナントで溢れていました。週末になると街に出てショッピングなどはお決まりのコースでしたが、これら商業用テナントはネットに拠点を構えるようになっています。そうなると街中の商業用不動産の用途は減ります。これは不動産価格の下落を示唆します。 実際、地方都市にいけば、シャッター商店街だけでなく、空きビルや銀行などの支店もかなり減っています。 仕事場も、コロナ禍によってテレワークが可能になり、かつてのように従業員の作業場所としての広いオフィスも必要でなくなりました。 このように、街の商業用の物理的スペースがどんどん必要なくなってきています。 ③コロナ禍によって人々のライフスタイルが変換  コロナ禍によって、人々はいままで以上にネットに頼るようになりました。実際、仕事、買い物、娯楽、友達とのコミュニケーションの全てがネットで完結できます。そして人々は、多くの人が集まって騒ぐよりも、自分の世界を大切にするようになりました。人々は、自然と生活空間における物理スペースをネットに移行しています。このように、コロナ禍は、人々の生活様式の変化を10年近く早めたといっても過言ではありません。 2.金融緩和が引き起こす不動産価格の怪  これから、世界中で人口減少が深刻化し、商業用不動産の空きテナントで膨れ上がる事が予想されます。世界中で不動産価格の停滞が予想されます。少子高齢化によって不動産の利用用途も縮小します。特に、地方郊外の場合、空き家問題は深刻ですが、都会のマンションの空き室問題も意外と深刻です。不動産価格とは不思議なもので、多量の空き室がありながらも都心に近づけば...

投資家視点の戦後経済(14) 日本のバブル処理終結とイラク戦争(2001-2004)

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  1.貿易センタービルのイスラムテロ 西欧諸国は少子化に伴う人口減少を抑えるために、イスラム移民を多く受け入れるようになった。その一方、イスラム過激派によるテロが西欧諸国で頻発していたことから、「21世紀はイスラム教、キリスト教のイデオロギー対立の世紀になる」とまで言われていた。2001年9月11日にはイスラム過激派によるアメリカ同時多発テロが発生する。米国相場はその動揺を抑えるために5日間市場を停止したが、市場が再開するとNYダウは8千台を割りこみ、NASDAQ指数は1500ポイントを割り込んだ。ブッシュ大統領は首謀者であるビンラディン率いるアルカイダを攻撃することで米国民の同時多発テロに対する愛国心の高めることに成功し、不況に対する国民の不満をかわそうとした。その後は、イラクのサダムフセイン大統領に焦点をあて、周辺国からサダムフセインを叩く大義名分が欠けていると非難されているにも関わらず2003年3月にイラク戦争に突入する。 米国経済は統計上では、2001年11月に底を打って回復局面に向かっていたが、12月に大手エネルギー会社エンロンが破綻するなど先行きへの不安が強く株式市場は低迷し、翌02年4月頃から下値を伺うようになり、7月にワールドコムも破綻したことで下げ足を速めて、NYダウは7,400台までに落ち込んだ。NASDAQ指数も2000台にとどまって重苦しい展開が続いた。 こういった暗い雰囲気のなか、歴史的な低金利による余剰資金が住宅市場に流れるようになり、ロサンゼルスなどの一部地域ではバブルと思われるような高騰を見せるようになる。 2.日本のバブル処理終結 2002年 年初からの下値圧力で日経は1万円を再び割り込んだ。その後、2月に政府が相場の悪化を食い止めるべく空売り規制したことで株価は持ち直し、5月に1万2千円をつけるなど小春日和を呈した。それと同時に上場企業の収益性が改善しPERも少しずつ欧米水準に近づいてきた。それでも、相場は再度下降トレンドに向かった、7月には9千円台に割り込み、一度消えたかに思われた製造業と建設業の過剰債務問題、その主力取引先であるメガバンクの不良債権問題が再燃した。日銀は10月に日銀当座預金残高目標を15~20兆円程度に大きく引き上げたが相場は反応しなかった。市場はひたすら不良債権処理の最悪のシナリオを織り込もうとして...

2022年9月時点の投資スタンス(米国株の見極めを意識)(運用状況)

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 FRBの金融引上げにより米国株は軟調に推移しています。普通なら、ダウ指数が3万を割り込めば、米国株の購入も視野に入り、1~2銘柄の米国株を購入するのですが、あいにくの円安のため、円資金での米国株購入は安易にできません。  そう思うと運用利回りが低くても外貨MMFについては、500万円程度の残高維持をしていればよかったと後悔するこの頃です。 1.予想される当面の株価推移  私の個人的な見解では、インフレが収束するまで米国ダウの調整は続くと想定し、今時点ではどこが底になるかは見当がつきません。 ただし、これらを占う上でGAFAMの決算状況がカギとなります。GAFAMが発表する9月、12月、3月決算でどこまで安定的な決算を出せるかであり、 〇安定的な決算を継続していけば、今後の金利上昇局面でもダウの調整は限られたものになるでしょう。 〇逆に、決算と成長性が思わしくないとなれば、ダウは大幅な調整をすることになり、2万5千ドルも視野に入るかもしれません。  そういう意味ではアップル、マイクロソフト、アルファベットの決算概況を注意深く見ていかなくてはいけません。 2.債券投資の優位性  私は、この株価調整の本当の要因は、以前も書いたように時価総額がGDPに比べ、あまりにも膨れ上がっていることへの調整であると睨んでいます。インフレは、膨れ上がった金融資産と実物貨幣価値の乖離を調整しているのであり、この仮定を踏襲すると最低でも数年間は、株価は右上がりに向かいにくいと推測できます。さらに、この調整局面で銘柄間の下剋上が生じて、下落する銘柄はどこまでも下落するかもしれません。  つまるところ、そんな動きに左右されず、金融引き締めで金利が上昇している債券投資はとても優位な投資先となっています。 3.当面の投資スタンス  今のダウ銘柄を見ると、連続増配の優良銘柄であるスリーエムやベライゾンの株価は長期的に見て、狙い目の価格帯になっています。ドルベースで見れば、実質5%~7%の配当利回りを長期間安定的に享受できる状況下にあります。私は円安でなければ、すぐにでも購入したいと思う水準です。結構、おいしい状況です。  しかし、この円安基調を黒田日銀総裁在任中に転換するのは期待薄であり、当面この状況が続きます。そう考えると円安は相当に憎たらしいと思うのは私だけでしょうか。  それ以外のスタンスとし...

投資家視点の戦後経済(13) IT(ドットコム)バブル発生と崩壊(1999-2001)

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  1.  IT(ドットコム)バブル(米国 ) IT   業界では、 1996年 の Windows95ブーム により 個人やオフイスでのパソコン普及が加速し、 Windows95に搭載される周辺のソフトウエアの需要が 増加した 。さらに Windows95を搭載したパソコンとサーバを組み合わせてビジネス用途のアプリケーションを安価に構築することが可能になり、メインフレームからのリプレース も 急増した。 それと同時に ネットワーク環境の急速な 発展が インターネット普及 を促して ネットワーク機器を専門とする企業 が 潤うことになる。このような背景により IT産業は空前の 好景気 となり、 I T 関連企業が多い NASDAQ指数 は 1996年 の 1000前後 から 1999年 には 2000 を突破し、 米国市場を大きく盛り上げた。さらに、 アジア通貨危機 を食い止めるための 金利引下げ が 過剰流動性のマネーを生んだ。それが IT産業に流れ込 んだ事で IT(ドットコム)バブル を発生させ、 NASDAQ指数 は 5048 を 記録するまでに爆騰する。 マイクロソフト、インテル、オラクル、シスコシステムズなどの大手新興 I T 企業は、米国の時価総額ランキング上位を占め、エクソンモービル、 GE、コカコーラ等と肩を並べるようになる。投資家は未来のマイクロソフトやシスコシステムズを発掘しようと、赤字続きで経営に問題のある ベンチャー 企業、さらには IT技術 者やベンチャー起業家 が 未来の 夢 を だけを説いた荒唐無稽な プレゼンテーション 資料にすら 多額の資金 を投入した 。 人々は、そういった 異常な 状況を「ニューエコノミー」とか「 IT革命」呼んで持てはや す一方、この相場は異常であると警報を発するエコノミストも少なくなかったが、いつ弾けるのかについては誰もが口をつぐんだ 。   2.IT(ドットコム)バブル(日本 ) 米国発の 「ドットコム・バブル」 は、不良債権に苦しむ日本経済に一時の好景気をもたらすことになる。 99年の春ごろになると、 日本市場は 米国相場の影響 下に組込まれるように 「ドットコム・バブル」銘柄 の暴騰 が始まる。 米国 NASDAQ市場と同じようにソフトバンク、光通信、Yahooなど...

投資家視点の戦後経済(12)不良債権問題の深刻化とアジア通貨危機(1997-1998)

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  1.日経平均バブル崩壊後最安値更新と史上空前の経済対策 1998 年になると不良債権問題のマグマは日本経済全体に重くのしかかり、株式市場を再び直撃する。日経平均は 97 年 12 月に 1 万 5 千を割り込んだ後、翌 98 年 4 月には 1 万 7 千円まで回復したが、その後は一直線に下落し、 8 月にはバブル後最安値である 1 万 4 千円をあっさりと割り込んだ。政府は、 98 年 4 月に第 7 回総合経済対策( 16.7 兆円)を打ち出すが効果らしい効果は得られなかった。株式市場は不良債権の重圧にアジア危機が加わったことで底値感は全く見られず、 10 月には 1 万 3 千円すら割り込んだ。又、ドル=円の為替レートは、 95 年から続いている米国が打ち出した「強いドル政策」だけの要因に留まらず、不良債権問題の膨らみを不安視した円売りも加速し、今度は 140 円の為替水準まで切り下がり、違った意味で経済を冷やす要因となった。経団連は、こういった底なし沼の円安基調に対し、その対策を政府に要望した。この事態に、宮沢大蔵大臣が借金大臣と揶揄しながら 11 月に第 8 回総合経済対策( 23.9 兆円)と大手銀行への 8 兆円の公的資金投入を実施することになる。 物価面においても、以前から日本はデフレに陥っているとささやかれていたが、この 頃から日本政府もデフレによる物価下落の深刻さを表明するようになった。これを受けて日銀はデフレの悪循環を断ち切るために 、 1999 年 2 月に 「 デフレ懸念を払しょくするまでゼロ金利を継続する 」 と宣言し 、 「ゼロ金利政策」 に踏み切った。 このデフレ・スパイラルは、バブル経済崩壊による不良債権に伴う不用設備、雇用過剰、巨額債務などの問題に加え、中国などの安い輸入品の増加などが複雑に絡んでいた。 2.不良債権問題 の深刻化 バブル崩壊により発生した不良債権は、次第にその規模をスノーボール化するように膨れ上がらせ、日本経済に影を投げかけるようになる。 1996 年には、住専問題が深刻化したことで政府は国会での度重なる議論の結果、なんとか 6850 億円の公的資金を投入することで決着をつけた。政府はこれで不良債権問題は解決したと発表したが、それは氷山に一角にすぎないことは明白であった。マスコミは...